08 兄に怒られた件

 居候を始めてから丁度一週間が経つ日。改まって言うことがある、と兄に正座させられた。すぐに崩したけど。


「由香。もう一度大学受験はするのか、しないのか、どっちなんだ」

「まだ決めてないって言ったじゃん。もう少し考えてからにする」

「そのもう少し、はいつだ」

「そんなこと言われてもなあ」


 あたしは助けを求めるように、キッチンで片づけをしているメイを見るけど、知ってか知らずか目を合わせてくれない。


「いいか。お前を居候させてから、俺の貯金はどんどんなくなっている。何故だか分かるか」

「はあ?」

「お前が食事をするからだ!」


 どういうことか分からん。あたしがきょとんとしていると、兄は続ける。


「いいか、メイを見てみろ。あいつは食事をしない。月一で血を分けてるだけ。ゲームやシャワーはするから、光熱費くらいはかかってるがな」

「ほうほう」

「ほうほう、じゃない。炊事、洗濯、掃除、ゴミ出しまで、あいつは家事を全部やってくれている。だから俺は、あいつを居候させてやっている」

「メイは偉いよねえ。いい奥さんになりそうだ」


 あたしのおふざけモードに、兄はとうとうキレたらしい。


「働かざる者! 食うべからず! って! 俺は言いたいんだよ! 何もしないんなら、出ていくか、バイトくらい探せ!」


 そんなわけで、今あたしは、コンビニで貰ってきたバイト情報誌を眺めている。


「カフェのオープンスタッフかあ……あ、ファミレスもいいなあ……」

「どうですか、良さそうな所はありますか?」


 メイが情報誌を覗き込んでくる。


「由香なら、どんなお店でも働けると思いますがね」

「えへへ、そうかな?」

「メイ、甘やかすな。そいつは部活もしたこと無いんだぞ」


 兄はまだ機嫌が悪いようだ。


「おっ、ドーナツ屋さん! 制服も可愛い! ここにしようかな」

「バイト初心者歓迎、明るく楽しい職場です、か。いいかもしれませんね」


 メイも同意してくれたことだし、とあたしは履歴書を取り出す。コンビニに行ったとき、一緒に買ってきたのだ。


「あ、でも写真! 写真がないよ!」

「礼、証明写真の機械って、ここら辺にありましたっけ?」

「駅前まで行けば、あるんじゃないか? ってその前に、お前私服で撮る気かよ。せめてシャツを着て撮れ」

「ええ……シャツなんて持ってないよ。必要経費なんだし、お兄ちゃん、買って」

「ちっ、仕方ないな」


 翌日、白いシャツを買ったあたしは、その足で証明写真を撮った。帰って履歴書も完成させた。これにて準備万全、だ。

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