07 兄のバイト先に行ってみた件

 兄の家に転がり込んで五日。三食食べて、メイとゲームをするというだらけた毎日を過ごしている。

 けどそろそろ、そんな日々を過ごすのは良くない、と思い始めた。

 そう。せっかく都会へ出てきたんだから、外へ遊びに行かないと!


「というわけで、行ってこようと思うんだ」


 そんな決意を語ったところ、メイが心配そうに言う。


「でも、一人で大丈夫ですか?」

「平気だよ。今は地図アプリだってあるしさ」

「もしものことがあったら、僕が礼に叱られます。ついていきましょう」


 そんなこんなで、吸血鬼と二人でお出かけすることになった。

 とはいえ、特にお目当てのものがあるわけでもない。デパートをうろつき、雑貨屋さんに入り、行列のできているスイーツ屋さんを眺めた頃には、すっかり都会に飽きてしまった。


「うちの近所のショッピングモールを、ぐぐっ! と広げただけみたい。そんなもんなのね、都会って」

「なるほど、由香にはそう映りますか」


 サングラス越しでも充分わかる美貌でメイが笑う。


「そうだ、お兄ちゃんのバイト先って、どこなの? ここから近い?」

「ここから10分ほど歩いたところにありますよ」

「飽きたし喉も乾いたし、そこ行こう!」

「ええ……礼を邪魔しちゃ悪くないですか?」

「きっと大丈夫!」


 押しに押して、メイに兄のバイト先へ誘導してもらう。


「うわ、お前ら……何で来るんだよ……」

「お客様だよ!」


 あたしが右手を挙げてそう言うと、兄はとことん嫌な顔をする。可愛い妹が来てやったというのに、何たる無礼だ。

 あたしはキウイジュースを、メイはトマトジュースを注文する。そう、兄のバイト先は、ジューススタンドだ。

 あたしたちは数席しかない椅子に腰かけ、ジュースを堪能する。兄が作ったとは思えないほど美味しい。


「なあ、あれがお前の妹だって?」


 兄が同僚に話しかけられている。


「違う。あんな不細工、俺は知らん」


 その言葉、ばっちり聞こえてるぞ。


「その隣は誰だ? 妹の彼氏か?」

「いや、俺の同居人。前に話しただろ?」

「へえ、あんなイケメンがか。お前ってやっぱり、その……」

「俺は女好きだ! 勘違いするな!」


 なるほど、同僚の間で、兄はそういうことになっているらしい。

 ジュースを飲み終わった後、あたしとメイはスーパーに寄ってから家へ帰る。今夜のメニューは、八宝菜。

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