05 朝食を食べた件

 兄の部屋に転がり込んだ翌日。コーヒーの香りで目が覚めた。

 部屋を出ると、予想通り、メイがキッチンに立っていた。今回はドリップではなく、豆から挽けるコーヒー・メーカーを使ったらしい。


「おはよう、メイ」

「おはようございます、由香」


 座卓の上には、こんがりと焼けたトーストと、トマトをふんだんに使ったサラダが置かれていた。きっとこれらもメイの手作りだろう。


「由香、礼を起こしてやってください」

「はぁい」


 こんなにいい匂いがしているのに、起きないなんて。あたしは兄のベッドに上がり込み、足で腰の辺りを踏んづける。


「うげぇ!」

「おはよ、お兄ちゃん」

「そうか、由香が来てるんだった……」


 懐かしい起こされ方に感動したのだろう。兄は目に涙を浮かべている。

 それから三人揃って食卓を囲む。


「いただきます!」

「はい、どうぞ」


 メイは何も食べないものと思っていたのだが、赤い液体をゴクゴクと飲んでいる。


「メイ、それ何?」

「トマトジュースです。朝食は採るようにしているんですよ」

「へえ、吸血鬼って血以外のものも大丈夫なんだ!」

「種類はごく限られますけどね」


 朝食を食べ終えると、兄は慌ただしく着替えを始める。


「お兄ちゃん、朝から仕事なの?」

「そうだ。夕方には帰ってくる。メイ、由香のこと見張っててくれよ、部屋を荒らすような真似は絶対にさせるな」

「了解です」


 うわあ、そう言われると、荒らしたくなっちゃうよね。妹に見られたくない物、沢山あるんだろうか。少々エッチなものくらいだったら、全然平気なんだけどな。


「それと、できることなら帰るよう説得しといてくれ」

「はあ、それは難しいですね」


 メイがポリポリと青白い頬を掻く。誰に説得されても、あたしは家には戻らない。

 兄が出ていくと、メイは片づけを始める。あたしはテレビをつけて、朝のワイドショーを見始める。ずっと勉強漬けだったから、テレビなんて見るの久しぶりだ。

 スポーツニュースのコーナーになって、ちょっと興味が薄れてきた頃、メイは洗濯物を始める。


「メイ、もしかして家事全部やってるの?」

「そうですよ」

「お兄ちゃんめ、押し付けやがって、最悪だね」

「居候の身ですから。これくらい、やらないと」


 メイの言葉は、さすがに図太いあたしの胸にもチクリとくる。


「あたしも何か手伝おうか?」

「いえいえ、もうすぐ終わりますから。それに、終わったら僕はゲームする気満々です」


 ゲーム。よくよくテレビの周りを見ると、最新機種は全て揃っている。あたしはソフトを眺める。アクションやRPGが多いようだ。


「さて、終わりました。テレビは見なくてもいいですか?」

「うん、いいよ。メイがゲームしてるの見とく」

「ありがとうございます」


 そう言って吸血鬼は、ゾンビを撃ちまくるアクションゲームを始めた。

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