04 同居するのは吸血鬼な件

 兄と同居しているこの男は、吸血鬼らしい。

 そんなバカみたいな告白に、あたしは目が点になったが、当人たちは至って真面目そうな顔をしている。


「ほら、試しに腕、触ってみ?」

「冷たっ!」

「脈、測ってみ?」

「無い! 脈無い!」

「そしてお口をアーン」

「なんか牙みたいに歯が尖ってる!」


 なんか、納得するしかなかった。嘘みたいな話だが、どうやら本当に、メイは吸血鬼らしい。


「お兄ちゃん、犬でも猫でも人でもなくて、吸血鬼を拾ってくるなんて……やりすぎだよ……」

「いやあ、でもこいつ、死にかけてたからさ。あ、正確には、もう死んでるんだっけ」

「はい。死んで吸血鬼になりました。もう何十年も前の話ですけどね」


 爽やかに微笑むメイだが、その笑顔を素直には受け止められない。


「な、由香、怖いだろ? 同居するのが吸血鬼だぜ?」

「えっ、と、メイさんは人の血を吸うの?」

「はい。月に一度、ごく少量を礼から分けてもらっています。あまり動かないので、必要な血液の量も少なくて済むんですよ」

「じゃあ、人を襲ったりしないの?」

「しませんよ。その辺りは、ご安心ください」


 あたしは覚悟を決めた。このまま実家に戻るより、わけのわからない吸血鬼と一緒に居た方が、ぶっちゃけ――楽しそうである。


「メイさん! これから、よろしくお願いします!」

「はい、よろしくね。それと僕のことは、メイ、でいいですから」

「わかったよ、メイ!」

「おいおいお前ら! 勝手に決めるな!」


 兄がまだ抗っているようだが、居候二人の意見は合致した。さて、もう止められないぞ。


「それじゃあ、遅くなりましたが、夕食作りますね。材料が少ないので、少し物足りないかとは思いますが」

「えっ、メイが作ってくれるの? やったあ!」

「一気に馴染むな!」


 兄の虚しい叫びは置いておいて、夕食作りはどんどん進む。今夜のメニューは、鶏肉のトマト煮とうす揚げのみそ汁だった。

 食卓には、二人分の皿が並べられ、メイは本当に食べないのだなと思い知らされる。それなのに、こんなに美味しい料理が作れるのは一体どうしてなんだろうか。


「由香。来年の大学受験は、どうするんだ。予備校には行かなくていいのか」


 美味しい料理を味わっている途中だと言うのに、兄が水を差すようなことを言う。


「無理無理、まだそんなこと考えられない。あたし、傷心中なんだよ?」

「傷心中の奴がそんなにバカバカ飯食うかよ」


 そして、あたしは兄の心をえぐるような一言を放つ。


「それにさ、せっかくいい大学出たって、いい企業に入れるわけじゃないでしょ?」

「それは……言ってくれるなよ」


 ようやく静かになった兄。あたしは機嫌を取り戻し、メイの作ってくれた料理を平らげる。


「ごちそうさま! とっても美味しかった!」

「それは良かったです」


 洗い物も、メイがしてくれるようだ。

 それから三人で納戸状態の部屋を片付け、あたしの寝る場所にしてもらった。リビングには多少物が溢れてしまったけど、許容範囲内だろう。

 シャワーを浴び、ジャージに着替えたあたしは、新しくできた自分の居場所を堪能しながら眠りについた。

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