第14話 最終話

普段飲まない私が珍しく飲みに出掛けたくなって、高校時代の友人2人と飲みに行くことになった。


未来と紗綾。


未来は夜キャバ嬢として働いていて、男性経験豊富。



私は、彼女たちに洗いざらい話した。


すると、こんな言葉が返ってきた。


「もっと良い男いっぱいいるよ!」


「そんなクズ男、別れて正解!」


そして、「マッチングアプリやりな!」と勧めてくれた。



紗綾が行きたいと言っていた居酒屋へ行くと、お店は

閉まっていた。


営業時間を調べると、まだオープン前だった。


私たちは、お店がオープンするまで店の前で待っていた。


すると、一人の同世代くらいの男性に話し掛けられた。



「12時オープンですよね?」


「そうです〜。まだですよね」


時計を見ながら、適当に会話が始まった。


「さっきまでこの近くのお店で飲んでて」


この近くに系列店があるらしく、このお店が好きな紗綾と意気投合していた。


なんでもYouTubeで紹介されているお店で、有名な人がいるとか、今日はいるかな?いないかな?と興奮した様子で話していたり、彼が一緒に写真を撮ったことがあることを嬉しそうに話していた。


イマイチ凄さが分からなかったけれど、知らない人と意気投合して、なんだか「昼飲みっていいよね」と実感を久々にした気がした。




あれから一人で泣いた。


自暴自棄になって、誰でも良いから抱いて欲しかった。



でも、セックスが好きじゃない。


一人でしても無理なのに、誰かと一緒にしても全然気持ち良くない。



彼と別れた直後、45歳バツイチ女性の同僚に誘われて、飲みに行くことになった。


正直、あまり乗り気だった訳ではない。


それでも応じてしまうのは他に予定がないからに他ならない。


彼は彼女のことを嫌っていて、あまり関わらないようにして欲しいと言われていた。


なんでそんなに毛嫌いするほどお互い近寄らないようにしているのか分からなかったけれど、価値観が意外と合いそうだとは感じていた。


彼の言うことは一理あって、彼女のことを嫌っていて、それも正しいと頭では分かっているのに。


飲みに行ったところで不毛になることくらいわかっている。


私はあまりアルコールが飲めない。

だからこそ、二日酔いするまで飲む神経が理解ができない。


お酒って、散財するわ、身体にも悪影響だわ、良いことない。という思いがどうしても先行する。


途中、仕事の連絡が来て「明日、仕事の時間が早くなった」そう彼女に伝えても、一向に早く帰してくれる気配はない。


彼女が飲みたい!という気持ちの方が優先するから。


先ほど、ニ軒隣にあるバーに「後で行こう」と言っていた手前、「一杯だけ」と告げた。


断れない私も私だ。



バーのマスターに彼氏と別れたことを告げた。


夜の世界に馴染んでいそうな出立ちの店主は47歳でバツイチらしかった。


相談して返ってきた言葉は、こうだった。


「都会じゃその年で独身でも当たり前」


「40代50代になるにつれて一人でも生きていけるようになるから、それまでになんとか見つけた方がいい」


「焦らなくても良いんじゃない?」


私は、アルコールがまわってしんどかった。


コロナになって外出自粛を余儀なくされて、外で飲み歩いていた人はようやく解禁された風潮がある。


それでもお酒を勧められても、身体に良いことはないと分かっているせいか積極的になれない。



一人ぼっちでいると埒が明かないことをぐるぐると考えてしまうから、なるべく考えないように先のスケジュールを埋めた。


秀明が荷物を取りに来る約束をしていた日にちに予定を入れて、彼に何時に来れるか連絡することにした。


……やっぱりダメだな。

一人で部屋にいると空虚感に襲われて、余計なことまで考えてしまう。


LINEを開いて、発信した。

ツーコール目で電話に出た彼。


「もしもし」


低めの声だった。


でも、次の瞬間、「どうした?久しぶりだね」いつもの優しい声の彼だった。


いつも電話が苦手な私が自分から連絡したことが予想外のような反応だった。


なんだかんだ言って秀明は優しい。



なんだか出会った当時の頃を思い出して、また一人で泣きそうになった。


彼からは、あれからずっと考えてたこと、自分の中で考えが行き着いたことを告げられた。


「フィーリングが合わなかったんだなって」


「俺が悪かった」


「ごめんな。とにかく申し訳ない気持ちでいっぱいだった。それを謝りたくて」



お互いが成長しないと復縁は有り得ないことを実感した。


私はいつも彼の真っ直ぐさやひたむきさ、正直な言葉に心を突き動かされる。


それからいつものように職場でのこと、あんなことがあったこんなことがあった。という話をした。



同僚から聞いて知っていたけれど、別れた翌日、年下の社員の子と揉めて大人気なかったなと反省したところを聞かされた。



別れたあとも気まずくなりたくないから、これからも男友達として居て欲しいとワガママを言い出したのは私。


別れ話をした時、秀明の中にそんな考えはなかったらしいけれど、考えを改めたことを伝えられた。


「この先、彼女ができても、職場の人とご飯に言ってくると言って嘘ついてでも会うと思う」



本当かどうかは分からないけれど、今そう思ったことは嘘じゃないだろうし、なによりその気持ちが嬉しかった。


いつも彼の言葉が心に響いて、突き動かされてきた。


告白された時も、私から別れた方が良いのかもしれないと話を切り出した時も。


その時思ったことを毎回伝えると、「純粋なんやな」と言われた。

「俺の周りはそうじゃないからさ」とも言われた。



確かに彼の親しい友人の話や彼自身の昔からヤンチャな武勇伝を聞く限り、そうなのだろうな。と思った。




他者からは「別れれば?」そう言われることもある男だけれど、「悪い人ではない」とも言われているし、それは私自身も十分理解している。



彼自身、周囲に合わせられるし、人の意見には素直に耳を傾けて聞けるし、ポテンシャルは持っていると思う。


世の中には腐り切った大人もいると思うけれど、完全には悪に染まっていなくて、純情な心を持った少年のような人でもある。




これからもなにかあったら相談してよ。とか、ご飯行ったりしようよ。と言ってくれた。


でも、あくまで自分が決めた体で「行ってもいいよ」と、自分のペースに持っていきたがるところは相変わらずだった。



それから「ぎゅーしていいよ」とか「よしよしして欲しい」と言われた。


彼は、一日会えなかっただけでも「久しぶりだね」と言うほど、寂しがり屋なんだな。



別れたから顔も見たくない。と突き放される訳でもなく、それを言われて嬉しいと感じてしまった私にも、まだ未練があるのかなって。


そんなたった数週間で癒えるはずもないけれど。



「それだけ本気だったってことでしょ」


昨日、バーテンダーに言われた言葉を思い出した。


「本気だったよ、当たり前じゃん」



同僚は「恋愛なんてしなくても良い」って言うけれど、貴方に何がわかるの?と思わずにはいられなかった。



「付き合って欲しい」と言われた時から、私の好きなところが「素直でいい子だな」って。


その言葉が単純に嬉しかった。


いい子の定義がイマイチよく分からないけれど、ピュアだとは私の周りの女友達にも言われる。


だからこそ、もっと良い人がいるよ!!とも。




きっと別れたあとも

初めて付き合った人だから、他の男性を知らない。


結局、1時間半話した。


あんなに気持ちが沈んでしまっていたのに、彼と話すことでなんだか心がスッキリした。


本当に、これからどうしよう……という悩みなんて、どうでもよくなるくらいに。


私を心から安心させてくれるのは彼だけれど、別れを決意するほど心理的に負担になるのも事実だ。


恋愛って、傷付いたり傷付け合ったり。……そういうものなのか?



今はまだ何も見えないけれど、この先、新しい出会いがあって、お互いパートナーができるかもしれない。


でも、やっぱり上手くいかなくて、これまでずっと一緒にいて自分を理解してくれている相手に心を赦す日が来るのかもしれない。



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初めての恋 - ノンフィクション - 藤井 @koiai

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