第12話 すれ違い

私のよくないところは、すぐ態度に出てしまうところだ。


自分の興味のあることなら積極的に関われるけれど、関心のないことにはまるで興味がない。どうでもいい。


それが分かりやすく態度に出てしまう。


一時的に無理して合わせることも可能だけれど、いずれボロが出る。


相手に興味ないのもすぐに伝わるし、不快な思いをさせてしまう。


それが秀明の癪にさわる。


仕事中、「どうしたの?」と過剰に心配されて、「なんでもないよ」と何事もないかのように返した。


でも、相手は必要以上にキャッチする。



「じゃあ、なんでそんな態度なん?」


「なにが?普通じゃん」と返答すると、彼は余計に気分を害す。


「マジでそれやめた方がいいよ」


仕事中にも関わらず、平常心でいられない。





この状況から抜け出したくて、(誰か助けて欲しい)。


心底そう願った。


でも、視線を送っても誰にも気付いて貰えない。


付き合っていると周知されているから、周りからは私たち2人が近くにいても、見て見ぬフリをされる。


2人の世界に放っておいてくれる方が正義だとされている。



「ちょっと、3番(トイレ)行こう」


裏で話し合うことを指示された。

さすがに無理になって、ホールに出ている女の社員さん二人に助けを求めた。


「石井さん無理なんですけど」


すると、それに気付いた一人の女の子に笑われた。


あぁ、分かるわ〜というようなニュアンスだった。


厨房内でもよく揉め事を起こしているので、アイツ面倒くさいよな。といった態度だった。



もう一人の女の子からは驚いた様子で「仲悪いんですか?」と尋ねられた。


仲が良いとか悪いとか、そんな一言で片付けられるような関係性ではない。と思ってしまった。


子どもの喧嘩じゃあるまいし。 


抵抗するのも面倒で、あくまで冷静を装った。

外に連れ出されて、従業員出入口を出たところで話をされた。


「なんでそんな態度なん?」

「なにが?普通じゃん」

「普通じゃないから言ってるんだろ。さっきも新田さんが休憩行きますって言った時、そっけなかったやん。気にするで」


私の言動に圧を掛けて、なんだかこうやっていちいち言われることが面倒くさい。


言っていることは分かるけれど、そんなに敏感にならなくても良いのに。と、冷静に思っている自分がいた。


そもそも相手がどう受け取るかが重要なのに。


私だってバカじゃないんだから、相手によってある程度は対応を変えているつもりだ。


この人にはこう言った方がいいな。とか、自分なりに考えて弁えているつもり。


それを真っ向から否定されて自分たちのやり方を強要されるような態度を取られると、なんでこの人と付き合っているんだろう……。という気持ちになる。



「俺には優しくして欲しい」


そう言われて、つくづく面倒くさいな。と思ったことがある。




店長や社員とも揉め事を起こして、なんで私この人と付き合っているんだろう……と思うことが多くなった。


よく職場で人と衝突して揉め事を起こすし、


そのくせあいつは少数派。

いつだって俺が正しい。


そもそも、その思考がどうかと思う。



彼になにを言ったって響かない。なぜなら自分が一番だから。


相手を見えない力でねじ伏せたいだけ。


否定されるのが怖いだけ、自分は正しいと他者に認めて欲しいだけ。


偉そうに見えて、実は自信がない。


痛いところを突かれたくなくて、虚勢を張って上手い言葉ばかりを並べて、自分自身を守っているだけ。



傲慢で、哀れな存在。

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