第10話 居場所がない

家事で揉める等は一切なくて、むしろお互いの距離感、温度差や気持ちの行き違い、相手に対する態度などの深いところで話し合いが長時間にも及んで、それが耐えられなくなっていってしまった。



あまりにも価値観が違い過ぎて、別れたい。と思うことが何度かあった。


そのたびに、これまでの思い出を思い出して一人で泣きそうになった。


独りじゃなくなったこと、これまで一人が当たり前だった近所のスーパーや、二人で並んで歩いた職場近くの街の景色をもう二度と彼と一緒に歩けないのかと思うと悲しさが込み上げてきた。


なんかそれを考え過ぎなのかもしれない。


「立ち止まっている時間がないから、俺はずっとは考えない。だからそんなに愛莉も考え過ぎなや」


私が一人でいると考え込む癖があるから、そのたびに彼から言われるセリフ。


それでも無理なのは、私に問題があるからなのかもしれない。


同棲や結婚なんて、他人が一緒に暮らすのだから自分と違うことがあって当然だし、いちいち気にしていられないという意見があるのも事実。


他人と一緒に暮らすのはしんどいけれど、彼とだからこそもっとしんどい。


仮に彼と別れたとしても、またイチから関係を築いて、一緒に生活することを考えると私は誰とも暮らせないかもしれないと考えると悩みがつきない訳で。



そのことについて、秀明は悩んでいない様子だ。


ある程度は許容範囲が広いというかどこでも寝られるし、ある程度相手に合わせられる。


ただ、どうしても譲れない時があって、そのたびに数時間にも及ぶ話し合いになる。 


それがまず食に関することだ。


この話し合いという名の時間が、私にとって「彼の意見を貫き通すための場」みたいになってしまっている。



初めは自分が悪いのだと、すべて背負っていた。



でも一人で背負いすぎると、ただの負担にしかならない。


なんだか100%彼に非がある訳ではなくて、私も十年以上も一人暮らしをしていて知らない間に自分なりのルールや、決まったルーティンがある。


それを崩されることにストレスを感じてしまう以上、この先誰とも生活できないのではないかと危惧している。



結婚も視野に入れているからこそ、我慢や不満が知らず知らずのうちに溜まっていくばかりだ。


誰にも吐き出すことができなくて、でも誰かに聞いて欲しくて。


同棲していると居場所がない。



逃げ出したくて堪らなかったし、自分の部屋なはずなのに、彼の居る部屋に帰りたくなかった。



一人じゃどうしようもなくなって、誰かに話を聞いて欲しくて、

でも頼れる人なんて彼以外に誰もいなくて。


通っているジム終わり、この辺りで近くの占いを検索している自分がいた。


ビルの一角に入っている占いに行くことにした。

エレベーターを上がって、ついたフロアには複数人の先生がいて、顔写真と説明が並んでいる。


先生を選んで、機械で予約を取るシステムだった。



直感で先生を選んで、時間を指定した。


暫く時間が空いたので一度外に出て、戻ってくることにした。


◇ ◇ ◇


指定していた占いの時間が迫ってきて、再び戻ってきた。


薄暗い個室のブースに入り、先生と向かい合わせに座る。



付き合って同棲している彼がいるけれど、別れたい訳じゃない。という旨を伝えた。


二人の将来について、尋ねた。


まずは、彼との二人の相性を見て貰った。

生年月日から導き出された結果は相性は良いとのことだった。

牡牛座と蟹座は元々良い星の配置にいると数々の占いを見て貰っても診断される結果だった。


それから現状やお互いの性格、対処法などについて話した。


最後にタロット占いをして貰って、彼との将来について占って貰った。


ひいたカードから「結婚はする」と言われた。


それを言われた時、そうなんだと想定外の気持ちの方が強くて、初めに結婚を考えていると申告したからかな?とさえ感じた。


普段だったら占いなんて行かないのに、よっぽど誰かに頼りたくなっていた。





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