第9話 支配

同棲中、初めて二人で旅行に行くことになった。


大阪から片道三時間半かけてのドライブだった。



朝、二人でシングルベッドで目覚めると身体を密着し合う。

私の手を掴み、自らの股間に持っていく。

朝から元気な息子を、いつも触って欲しそうにする。


「朝から元気だね」


そう言うと、彼が照れたように隣で笑う。

ぐりぐりと手で触っていると、パンツを下ろして彼の股間が露わになった。


「触るの上手」


いつもそう言って気持ち良そうな顔と声を出す。


止まらなくなって、口に含む。


その時、スマホを取り出して、動画に納めると言い出した。


拒んだけれど、否応なく応じた。


愛莉がいない時、「一人でするから」と言われた。



おかげで家を出る時間が遅くなってしまった。


車をスタッドレスタイヤに変えるためにタイヤ屋さんに向かわなきゃいけなかったのに、到着するはずだった時間に間に合いそうになかった。


車に乗り込み、彼が電話で申し訳なさそうに遅れる旨を伝えた。


……朝からなにやってるんだ。と、我ながら思った。




彼は、いつも車の運転中、左手で手を繋ぎながら右手の片手で運転している。


他にも、スマホでナビしながら、話ながらなど余裕でしているので、いつも器用だな。と感心する。


私が車を運転できないだけに、運転できる人はそれだけで格好良いと思ってしまう。



到着するまでの三時間半、車内ではずっと喋っていた。


彼は話すことが好きな人で、そこが好きになったけれど、さすがに長時間のドライブ中ずっと彼の話を聞いているのに疲れる自分がいた。


長野県に到着すると、意外と短く感じたけれど、車内での彼の発言が妙に気になった。


「俺は決して話すのが好きな訳じゃない。

職場でも、空気を読んで相手に合わせているし、頭の中にストーリーがあって、自分のペースに持っていっている」


同じ職場で彼の仕事振りを見ているからこそ分かることだけれど、自分で周りを支配しているように見えて、大人な周囲が子どもな彼に合わせているようにしか思えなかった。


「俺が普段これだけ仕事をしている。

だから周りは文句言えないし、それで許されるとも思っている」


彼が率先して厨房内の仕事を行なっているのは事実だが、それを自分で俺やってるとたかをくくるのはどうかと思う。


自分の存在感を周りに知らしめたいが故の「どうせやるなら爪痕を残したい」発言。


「相手がどう出てくるか、計算して話している。だから美波もそうした方がいいよ。俺はそうしている」


それを聞いて、私に対してもそうなのかな?と思ってしまったのも事実だ。


そんなことはないと信じたかったけれど、素朴な疑問で、「なんでそんなこと私に言うの?」と尋ねると、「愛莉だからだよ」という返答が返ってきた。


なんでも話せる。というようなニュアンスだったけれど、秀明の心のうちを知ってしまったみたいで、なんだか心境が複雑だった。


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