第8話 遅れてきた青春

 家も職場も一緒で、毎日のように一緒にいた。

 30代にもなって、社会人なら普通お互い忙しくてすれ違ってばかりであろう男女がこんなにも時間を共にするなんて、珍しいことだと思う。


 お互いフリーターだから成り立つのかもしれないけれど、私にとっては、遅れてきた十五年分の青春を取り戻せた気持ちになった。


 反面、一気に色んなことが押し寄せてきて、キャパオーバーになりつつあった。


 初めて異性とお付き合いをして、夜中ドライブに行って、手を繋いでコンビニへ行って、傍から見たらなんてバカなんだろう。と思えるような世のカップルがイチャイチャしているのと同じような光景。私たちも同類で、まるで二人だけの世界だった。


 ただただ幸せだった。


 これまでの寂しさを埋めるかのように、頻繁に連絡を取り合って、時間があれば電話を繋いで、たびたび一緒に食事へ行った。


「終わったらご飯行こう」仕事中そんな連絡が来て、一層仕事も頑張れた。


 バイト終わり、近くの焼肉屋さんへ行って、空腹だったので二人でたらふく食べた。

 お腹が満たされると、心が満たされるのは本当だと思う。


 夜の帰り道、彼の腕に捕まりながら歩いて散歩しながら帰った。



 満たれていく気持ちでいっぱいだったのに。


 同棲したら終わりだとも思う。


 ◇ ◇ ◇


 一緒に暮らし始めた直後、食に対する価値観が違いすぎて、かなり揉めた。


 それで別れ話にまで発展したくらい。


 お互い食に重きを置いて生きている。



 将来的にはピッツェリアを持つことを目指している彼が指す「イタリア料理とは、こういうもの」。


 文化、地方、故郷、慣習。


 彼の言っていることは分かる。


 でも、好きなように食べられない食事が、ややストレスになりつつあった。



 食事って毎日するものだからこそ、それが降り積もっていった。



 夫婦は他人とはよく聞いていたけれど、いざ自分が当事者となったら受けるダメージが相当大きい。





 家の中で「こっち来て?」と甘えられて、嬉しい時もあれば、そうじゃない時もある。



 外で頑張っている分、家に帰ってきた時くらい安心したい。


 男性って、そういうものなのかもしれないけれど。



 家事をやっている時に作業を妨げられて、構わないと不機嫌になる。


 気付いたら寝落ちしているし、起こしても一向に起きない。


 子どもみたいな人で、もはや一人の時間ができて安堵してしまう。



 

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