第6話 ネガティブな彼女×陽キャな彼氏
付き合うことになってからは、私の仕事終わりに職場まで車で迎えに来てくれたり、たびたびご飯に誘ってくれた。
何気ないことだけれど男の人と二人で一緒に過ごすなんて、私にとってはすべてが初めてで、どれも印象に残っている。
彼からは、付き合ってからも「前から気になっていたのかもしれない」と言われた。
二人で一緒にいる時、ふとした瞬間に、「ずっと一緒におるやろ?」と言われる。
今まで、これっきりだとばかり思っていたから、これから先があるということが嬉しかった。
*
ただただ幸せだった。
朝、お互いが仕事に行く前に電話をして、仕事が終わったら電話して、家に着いたら夜も電話した。
おかげで会っていない時も身近に感じられた。
独りじゃない安心を覚えた。
これまで独りだったのに、これからは一人じゃないという安心感がなにより大きかった。
*
仕事終わり、家まで送ってくれる車の中、彼の方から「愛莉とは結婚も考えている」と言ってくれた。
普通、男の人って「結婚」というワードを口にすると遠ざかるというイメージがあったから、私の方から何も言っていないのにも関わらず秀明の方から言ってくれたことがとても嬉しかった。
でも、そう長くは続かなかった。
◇ ◇ ◇
私は自分の気持ちが言えない。
これを言ったら相手を傷つけてしまうだろうな、とか必要以上に相手の気持ちを汲み取るからこそ、否定的な意見をなるべく相手に不快な思いをさせないように伝えられない。
最もたるものが同棲だった。
「ずっと一緒にいたいな」と言う彼の言う通りに、事が進んでいった。
これまでの言動から秀明の言うことは合っていると認識していたからこそ、彼の意見に同意はした。
でも、分かっているのにやるから結局、無理になって自ら苦しむ。
彼は、こちらが納得せざるを得ない理由を並べてくる。
ここ数年ずっと働いてきて、ようやく取れた休暇。
暫く休むことには私も同意した。
でも、私は他人と暮らすことがストレスになってしまうし、あまり乗り気ではなかった。
秀明は、「愛莉はどう思う?」といった相手の意見に耳を傾けることをあまりしない。
自分が貫き通したいところは一方的に「良い?」みたいに、相手にダメな理由を与えさせない圧がある。
例え正当化していたとしても、秀明が言うことは信じていたのと、「一ヶ月後には仕事を探すから」と言っていたので、一緒に住むことに合意した。
初めて男の人と付き合い始めて、一ヶ月も経たないうちに同棲し始めた。
詰め過ぎじゃないか?と我ながら思ったけれど、結婚を意識した仲なら、それくらい不思議ではないという意見も周りでは多かった。
本来、同棲をするってもっと喜ばしいことなのかもしれないけれど、私にとっては彼のスピード感についていけなかった。
"この日に買い物に一緒に行こう"という前触れも特になく、彼のテンポに流されるまま、ドライブ行ったついでに近くのニトリで寝具を揃えに行って、100均で必要なものを買い足しに行った感じだ。
なんというか、これからずっと一緒にいられるというウキウキした感情が一切ないまま秀明との同棲生活がスタートした。
普通、同棲ってこんな感じじゃないと思う。
……他に恋愛をした経験がないから分からないけれど。
それとも結婚なんて、今後の生活が絡んでくるからもっと面倒なのだろうか。
なんて、幸せに向かっているはずなのに、なんだか心から素直に喜べなかった。
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