第4話 初めてのデート
職場近くのなんば駅で待ち合わせをして、一緒に地下鉄に乗って、目的地の鶴橋まで向かった。
調理場でよく手を洗ったりするため、ささくれができていて絆創膏をしていたら目をつけた彼に「可哀想に〜!」と言われた。
鶴橋駅に到着して、行こうと言っていたお寿司屋さんにGoogleマップを頼りに道に迷いながら歩いていたら、シャッターが閉まっていて休みだった。
ようやく着いたと思ったら、年始だからということもあってか、
まさかの店休日。
石井さんに「ごめん〜」と謝られたけれど、「そんな日もありますよ!」と言って、近くの違う店に行くことにした。
ほどなくして、韓国料理屋に入った。
テーブルに向かい合わせに座って、サムギョプサルを注文した。
巻いていた赤いチェックのストールを外し、着ていたコートを脱いだ。
私の格好は仕事終わりということもあり、グレーのパーカーに黒のスキニーパンツという着飾らない本当に楽な格好だった。
仮にもデートなのに、少しでもお洒落な格好をしていこうという発想すらなかった。
案の定、コートを脱ぐと「中そんなの着てたの?」と笑って突っ込まれた。
「私、服装に疎くて」
「いいじゃん。可愛くて。俺、全然そういうの気にしないよ」
婚活では女子アナのような格好が良いとされている中で、仕事終わりの楽な格好でも全然気を遣わない相手って楽だな、と思えた。
それから料理が運ばれてきて、自然と会話が進んだ。
「次どこ行く?」
そんな感じで自然と二軒目に行くことになった。
二人で並んで歩いて、今度は近くの鉄板焼屋さんに入った。
メニューを見て、私の好きなイカ焼き、彼の好きなとん平焼き、絶対に美味しいじゃん!と意見が合致した明太もんじゃ焼をシェアした。
途中、お手洗いに立った。
ふと一人になった時に、疲れたな〜と思うことが多いのに、そんなに気を使わないでいられる相手だった。
彼がイタリアに修行に行っていたことをカメラロールに入っている写真を見ながら話を聞いていた。
食べ終わると、私がまだ席にいる間に彼はいつも先立ってお会計を済ませてくれる。
まるでこちらに気を使わせないみたいに。
「ありがとうございます」とお礼を言って、お店を出た。
夜風が気持ち良い。
二人で歩きながら、街をウロウロした。
「俺、太ってたけど痩せたんだよ」というぽっちゃり体型の彼がどうやって痩せたかとか、元々体重が何キロあったとか、そんな話をした。
「ふぐ好き?」と聞かれて、「食べたことない」と答えると、驚かれた。
「食べてみたい!」と言って、覗いたお店に入ることにした。
個室の居酒屋で落ち着いた雰囲気になっていて、白子や一品料理などをいくつか頼んだ。
「美味しい!」と言うと、「良かったね〜」と彼はニコニコしながら言った。
まるで親が子どもに微笑みかけるように。
お酒を飲みながら、私の悩みを引き出そうと問われた。
でも、彼氏でもない男性に言いたくなくて、頑なに拒んだ。
泣きそうになって、「どうしたの?」とか「もうお酒やめとき」と言ってくれた。
またトイレに逃げて、精一杯だった。
その後、店を出て商店街を歩きながらも、彼はずっと「で、一体何に悩んでいるの?」とそればかりだった。
私は適当に悩んでいることを徐々に打ち明けた。
好きな人ができないとか、身体の関係を迫られて終わるとか。
核心には触れられなかったけれど、嘘じゃないことも事実だ。
恋愛にまつわる話をしている時に、彼の恋愛観が徐々に明らかになってきた。
なんだか私は「心が通っていないのにセックスするのは違うよなぁ」という話をした時に、「俺もそう思う」という返事が返ってきた。
ただしきりに「セフレ?」とか「不倫?」とか、純情とはまるで逆の方向に話が進んでいった。
「だから違うって!」
笑いながら否定した。
いつも話を勝手に変な方向へと持っていく。
でも、そんな彼との掛け合いが妙に心地良かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます