第2話 異性との接点
無事に採用が決まった洋食店が本当に働きやすい職場だった。
まず厨房内で一緒に入る時間が長い店長が良い人だし、他の正社員の人たちも皆人当たりが良い。
コミュ障なりに相手はどんな人なのだろう?と興味があって、自ら話し掛けたり、まずは自分から自己紹介することを心掛けていた。
その中で、彼と出会った。
石井という男性スタッフがいて、シフト表で名前は見たことがあるものの、実際に会ったことはまだなかった。
店長や周りスタッフからは散々「イケメンだから!」と、かなりハードルを上げられていた。
イケメンだから!という人に限ってイケメンではない説。と思いつつも、いざ本人と対面することになった。
ぽっちゃりしていて、親しみやすそうな雰囲気な人だった。
(案の定、決してイケメンの部類ではなかった。)
「初めまして。佐藤です。よろしくお願いします!」と挨拶すると、「あっ、石井です。よろしくお願いします!」と返してくれた。
「石井さんのことイケメンだってめっちゃハードル上げられてましたよ」
「いや、佐藤さんだってめっちゃ美人が入ってきたって噂されてたよ」
聞くところによると、なぜかお互いにハードルを上げられていた。
それを聞いて、「やめてくださいよ!」と周りに言ったけれど、そんな冗談が言えるほど和気藹々とした職場だった。
この歳になってアルバイトって、年下ばかりでやりづらいだろうな。と思っていたけれど、良い人ばかりで、とにかく働きやすかった。
会話の中で石井さんの年を聞くと、36歳だと言っていた。
同い年くらいか、もしかしたら年下かもしれないと思っていたので、意外だった。
自分より年上の男性スタッフもいて、ここが自分の居場所になりつつあった。
*
石井さんとは、夕方出勤の私とシフトが入れ違っており、引き継ぎのタイミングで顔を合わせることが何度かあった。
とにかく喋るのが好きな人で、キッチン奥の洗浄機でランチ後の食器等を洗っていると、やたらと話し掛けて来る。
「家どこなの?」から始まって、「一人暮らし?」とか他愛もないこと。
でも、なんだかすごく話しやすくて、シフトで被るたびに彼に興味が湧いてお互い話すことが増えた。
「血液型何型ですか?」という話をして、「A型とO型は相性が良いらしいよ」という話をしたり、「お金よく何に使ってる?」とか、趣味の話をたくさんした。
話すのは嫌じゃなかったし、むしろ石井さんと話していると楽しかった。
「佐藤さんて彼氏いるの?」
そう聞かれて、ドキッとした。
私も石井さんに彼女がいるのか気になっていたから。でも自分からは聞けなかった。
その会話を聞いていた周りの社員のおじさんからは「石井さん、佐藤さんのこと口説いてるの?」と冗談混じりにからかわれていた。
「……いないですよ」
「じゃあ何に悩んでるの?」
なぜか「悩んでることあったら聞くよ」と、しつこいくらいに聞かれていた。
別に悩んでいるなんて言ったつもりもないのに、やたらと悩みを解決したがる。
「石井さんは彼女いるんですか?」
「いるねん」
それを聞いた瞬間、いるんだ。と内心ショックだった。
……でも、そりゃ彼女いるよな。と納得もした。
七年も付き合っている彼女がいるとのことだった。
結婚考えていないのかな?とも思った。
「結婚したいと思わないんですか?」
「したいよ」
「でも、長く居すぎて家族みたいになってる」それを聞いて、あぁ。と妙に納得してしまった。
*
「何に悩んでるの?」
仕事中、あまりにも話し掛けられて、新人で業務を覚えることに精一杯なのに集中できないから適当にあしらっていた。
「将来のことについて悩んでいるんですよね〜」とか、「仕事このままでいいのかな……」とか、「夜眠れなくて困ってます」ということを伝えると、パンパンパンと答えが返ってきて、ハイ解決!みたいな感じで会話が進んでいった。
でも恋愛のことは何ひとつ話さなくて、それで気になったらしい。
「言えない恋愛してるの?もしかして不倫?」
勝手にどんどん話を膨らませていって、彼が一人で困惑していた。
「なにも言ってないですよ!勝手に妄想するのやめて貰えます?」
「じゃあ、なに!?」
大体の人は沈黙を貫いていると引き下がってくれるのに、この人は平気で人の領域に踏み込んでくる。でもそれが許されるキャラなのだと思う。
渋々、「彼氏ができない」ということを打ち明けると、「そんなこと大した悩みじゃないよ!」という返事が返ってきた。
大した悩みじゃないって、今まで一度も彼氏ができたことがないなんて口が裂けても言えない。
とにかく仕事中も、ことあるごとに話し掛けてくる。
「俺が紹介しようか?」
そう言ってくれたものの、「男紹介するって言って、俺が来たらどうする?」とか、どういうこと?と頭にはてながいっぱいつくような質問をされた。
「昔、女の子紹介してくれるって言ってくれた子がいて、映画館行ったらその女の子だった。面白いでしょ」
なにそれ。気があるってこと?
その他にもジャブだと思うようなことはいくつかあった。
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