第9話 アカシック大宇宙教 朝倉大覚現

「さて、次のニュースです。昨年の参議院議員選挙で戦後最高数である1000万票を超える白票数を記録した問題について、原因究明のために作られた「民主主義を守る特別有識者会議」の第4回目の会議が本日行われました。阿南会長のコメントが入ってきています」


阿南会長のコメントが流れる。


「この大量の白票の正体は以前不明です。サイレントヒューマンの仕業であるとの説があるが、確認はできていません。しかしながら選挙制度や民主主義への冒涜であることは間違いないですね」


 スーパー特区赤坂にあるとある煌びやかな事務所で、見た目派手な強面の60代とみられる男がニュースをみて不敵な笑みを浮かべていた。男はアカシック大宇宙教の教祖である朝倉大覚現という名で世に知られていた。


「白票もこの規模になるとさすがにメディアも無視できないな」


「1000万票とは。我が党の得票数より多いなんて、なんとも」


朝倉のとなりに座っていた日本光臨党の幹事長が俯き加減で答えた。


「我が党は所詮、新興宗教団体だ。仕方ないさ。むしろ頑張ってるほうだろう」


「全ては朝倉先生の人徳と教えのおかけです」


「ほとんどの人間は宗教とカルトの区別もつかないけどな…

まぁしかし、我が国のメディアってのは本当に節操がないな。表向きは白票はけんからんみたいなことを言っているが、本音では騒ぎ立ててもっと白票増やそうとしてるようにしかみえないな」


「白票がどれだけ増えても政権に何の影響もあたえませんから、体制維持には都合が良いってことですね」


「我が国のメディアはすっかり政権のプロパガンダだよ。15年前のパンデミック以降、特に顕著だ」


「あの時はどのメディアも右へ倣えでしたね。これでもかと不安を煽って、それで国民へのマイクロチップの埋め込みもすんなりといったわけで。それ以来すっかり味を占めた感すらありますね」


「我が国の国民は本当に真面目で従順だからね。いい意味でも悪い意味でも」


「しかし、朝倉先生、サイレントヒューマンは無言の抗議とはいえ、白票なんて大量に投じてるんでしょうね?どれだけ入れても無効票には変わらないのに」


「ふふ。そこだよ。例えば、今度の衆議院選挙でもしこの白票が全部我が党への票に変わったらどうなると思う?」


「え?!どういうことですか?」


「サイレントヒューマンは14年前に失った彼らの権利を回復させたいわけだ。あのマイクロチップ法を改正をしたいわけだ。彼らが結集すれば、国会議員を何名かは送り込むことはできるかもしれない。けど、それじゃ少数政党がひとつできるだけで、法改正は到底できない」


「なるほど。少数政党じゃ法案提出すらできないですからね」


「彼らの狙いは我々のような中途半端なサイズの党にこの一千万人分の白票を売ることなんじゃないかと思っているんだ。法改正の実現を条件にね。例えば彼らの白票が全部我が党に入れば我が党は第一党になれる。第一党になれば国会を押さえて法改正ができる。サイレントヒューマンは権利回復できる。我々もやりたいことができる。お互いにウィンウィンじゃないか」


「なるほど。でもサイレントヒューマンなんかと手を組むなんて、我が党の党員は反発しませんか?」


「パンデミック以降、マスコミのプロパガンダで一般国民はサイレントヒューマンは非人間的な奴らだと思わされているからな。悪いことが起きたら全部サイレントヒューマンのせいだ」


「はい。このところ続いている怪奇事件だってサイレントヒューマンの仕業に仕立て上げようとしている可能性すらあるようですからね。我が党の真面目な党員たちはなかなか納得しないんじゃないかと」


「まぁそこは党員には言わずに裏取引でうまくやるんだろうな。第一党になってしまえば党員も変わるさ。権力ってのはいい意味でも悪い意味でも人を変えるからね」


「まぁ、確かに。自分達の理想を実現するためには清濁合わせ飲まねばなりませんからね」


「第一党にならない限り、やりたいことができないのが、今の民主主義だ。数こそ正義なんだよ。我々がその票を買わなければ、彼らは民国党にでも売るだろうよ。何なら今の第一党の民自党にだって売るかもしれないし、権力維持のためなら何でもありの民自党なら喜んで取引するかもしれない」


「なるほど。確かにそうかもしれません」


「サイレントヒューマンの代表とは私が話をするよ。我がアカシック大宇宙教の教義は、人間尊重、利他の心、見返りを求めない愛だ。それらをベースに政治をするのが日本光臨党だ。けれど第一党にならない限りそんなものは単なる空虚なスローガンにすぎないよ」

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