第23話 一人で

 左右の剣を持ち換えて、跳躍したラニゴの着地点、顔面に当たる位置へ短い剣を投げつけた。


「キィ!」


 当たった!


 ラニゴの鼻から左目を切り裂き、飛んで行った剣は落ちた地点で金属音を響かせた。


 視界を失った左へ回り込み、わき腹から剣を突き立てた。


「キェアアアアア!」


 剣を引き抜くと大量の血を流している。一撃では倒しきれなかったけど、恐らく致命傷になるはず……。


 徐々に動きが鈍り、私は最後に背中に飛び乗り頸部に剣を突き立てとどめを刺した。


 断末魔の後、完全に呼吸が止まるのを確認した。


「勝った……!」


 ……というか、ノイ車でこないと持って帰れないじゃん!


「エリ! エリ! おーい!」


 聞き覚えのある声……。


「アイリス! キージェ!」


 ノイ車の荷台から二人が飛び降りて駆け寄ってくる。


「エリ、戦えるじゃん! 全部思い出した? ケガはない?」

「えっと……記憶はまだ……」

「実は途中からずっと見てたんだよ。こないだとは見違えたな!」


 キージェがすごい嬉しそうな顔をしている。


「っていうか、どうしてここに? グランは?」

「グランは、同僚が負傷して付き添いをしているから少し遅れてる。大丈夫、無事だよ」

「エリが探索に出たってメルナさんから聞いて、追いかけてきたんだよ」

「……ちょうど良かった。ウサギくらいだと思ってたら結構大きくて」

「ウサギ?」


 あ……またやってしまった。


「夢で見たこのくらいの動物……」

「それはずいぶん小さいな」


 キージェが、大きさを示した私の手の幅をみて笑っている。


「じゃあ、荷台に載せよう」

「そうだな!」


 力を合わせて荷台へ載せる。


「さあ、帰ったらラニゴ祭りだね」

「あ、私はちょっと探すものがあるから、先に帰って」

「え?」

「どんなこと? 僕たちで手伝える?」


 ……一人で探すより、手分けしたほうがいいか。それにまた暗くなり始めている。


「実は、キュストさんの剣を探してて」

「え、キュスト隊長の?」

「先日、ここでの制圧時に剣が折れて……それで大怪我をしたらしくて」


 二人の顔が曇る。


「大事なものらしいから、代わりに探しにきたの」

「よし、一緒に探そう」

つかにはつる草の模様が入ってるから、それを見つけて」

「わかった」


 キージェが空に照明魔法を放ってくれたので、かなり見やすくなった。

 やっぱり頼れる存在だ。




 私が投げたエリムレアの剣も回収しなきゃ。


 飛んで行った方角へ探しに行くと、エリムレアの剣の近くに大きな赤みがかった刀身だけが横たわっていた。


『さっきの金属音はこれに当たったからか……』


 キージェが近くにいたので、呼んで確認してもらった。


「これは……間違いなくキュスト隊長のものだなあ」

「後は、つかを見つけなきゃ。刀身があるってことは、つかも近くにあるよね」

「……だな」


 アイリスも呼んで、刀身を見つけた場所を中心にして捜索しても一向に出てこない。


「剣同士がぶつかりあって折れたとしても、金属だし……そんなに飛んでいかないよね」

「これだけ重たい刀身、折れたくらいで飛ぶかなぁ」

「キュストさんは、折れたとは言ってたけど、飛んで行ったとは言ってなかった」

「柄は握ってるもんだし、負傷した時に落としたならその場で落ちる。あるとしたらこの近くだと思うけど……」


 キージェが再度、照明魔法を打ち上げてくれたので、私たちはもう一度辺りを見回した。


「古ロメールの人が持ち去っちゃったのかなあ」

「綺麗な細工がしてあったし、そうなのかな……」

「とりあえず、肉が腐る前に帰ろうぜ。刀身が見つかっただけでも良いんじゃないか?」

「うん……」


 本当は柄のほうが見つかると良かったのだけど……。


 刀身が落ちていたのは戦場となっていた荒れた草地ではなくて、踏み荒らされていない綺麗な草原だ。一体どうしてあんなところに……。離れたところで一騎打ちでもしてたんだろうか。




 探索組合に行って報酬を受け取ると、先日のスモノチ30匹の3倍の額。報酬額まで見てなかった……。


 その場でアイリスが耳を切ってくれて、私は学者のカーナ先生の自宅へそれを届けに向かう。その間にアイリスとキージェがラニゴを肉屋に持ち込んでくれた。

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