第22話 ひとり探索

 キュストさんとは広場で別れ、私はメルナさんと一緒に探索組合へ。


「メルナさん、北東の草原の禁足地ってどんなところです?」

「確か先日、制圧戦があったところですね」

「えぇ……」

「今は落ち着いていると聞いてます。探索業務は……何かあったような……」


 メルナさんが受付の中に入って、依頼書のファイルをペラペラとめくっている。


「あ、あった! 学者のカーナ先生からの依頼でラニゴ狩りですね」

「ラニゴ?」

「こう、耳が長くてピョーンって跳ねる動物です」


 メルナさんが両手を頭の上でピョコピョコさせる。


 受付の奥からぶ厚い本を取り出して、イラストが描かれたページを見せてくれた。


「ウサギみたい」

「ウサ……?」

「あ、いえ……なんでもないです」


 学者がまとめた学術書らしい。挿絵も本物によく似ているそう。


「ラニゴの耳を1対、という依頼です」

「……狩るのって、スモノチみたいに何か特別な方法があったりします?」

「いえ、皆さん得意な武器で狩ってるみたいですよ」


 なるほど、それなら割と簡単に狩れるかもしれない。


「これ、毛皮ですか?」

「あ、そうですね。獣関連の本は、たまにサンプルが貼られてるんです」


 ラニゴの項目の終わりに、小さくカットされた茶色の毛皮が貼られていた。


「良い毛並み……」


 毛足は12ミリくらいで密集している。使い勝手は良さそうだ。


「ラニゴは目立つので、すぐわかると思います。毛皮は王都向けに売れますし、お肉も美味しいので需要もあるかと。依頼は耳だけですから、お金を稼ぐのには良いと思いますよ」


 よし……!


「この依頼、私が引き受けます!」




 太陽が出ている時間に現れるそうなので、依頼だけ受けて明日の明けの時刻に現地に行くことにした。


 お風呂に入ってぐっすり眠って体力を回復して、ノイを借りて出発だ。


 場所は意外と近い。正しくは北東の禁足地群となっていて、あちこちに遺跡らしき崩れた建造物があった。


 ……戦闘のあった禁足地は、地下への入り口付近の草原で、血の痕や焼け焦げた布や草で荒れていて、すぐに分かった。


 キュストさんの剣、誰かに持ち去られてないだろうか。落ちてると良いけれど……。


 ノイで草原を走り回って探しても、見つからない。それにラニゴもいないんだけど……。もうちょっとあの学術書で調べてくれば良かったな……。


「あ……」


 大きく盛り上がった土の山が見える。ラニゴの巣穴の入り口……とか?


 近くまで行くと、ノイが足を止めた。


 それどころか後ずさりを始めた。普段は従順なのに……


「ちょっと、あの近くに行きたいんだけど」


 目の前の土の山が動き出す。


「って……なにあれ!!」


 それが、ラニゴだと分るまで、そんなに時間はかからなかった。




 姿はウサギに似てとても可愛いのだけど……熊さんサイズ。


「大きい……」


 それが私たちを見るや、大きな口を開けて飛び掛かってきた。確かに目立つけど、これは……これは無いわー!


 驚いたノイの動きについて行けず、地面に振り落とされた。


「うっ……」


 そこにラニゴが大きく飛びあがり襲いかかってくる。


 転がりながら交わして……私は起き上がり剣を抜く。


『キュストさんが鍛えてくれた今の私なら……狩れるはず』


 と言うか、お前のぬいぐるみを作ってみたい。ミニチュアならもっと可愛いはずだ。


 今、私の目的が全て繋がった。ラニゴを倒して探索依頼をクリアし、キュストさんの折れた剣を回収して、キージェたちに肉をふるまい、毛皮を使ってぬいぐるみを作る。


「やぁ!」


 正面から斬りかかるも、跳躍で避けられてしまった。


 ラニゴの跳躍は5mほどの高さがある。それに素早い……。


 着地のタイミングを計って斬りかかっても、頭を振り回して長い耳で反撃されるし、勢いよく突進もしてくる。


 耳はウサギとちがって硬い。剣を弾き飛ばされたらひとたまりもない。剣が当たったところからは多少の血が出ているけど、痛がっている様子はない。あれが武器であり盾なのか。


 それに口を開けると、ウサギと同じく大きな前歯。アレに噛まれたら腕ごと嚙み切られるだろう……。首とかだったら……さすがに即死かもしれない。


 耳で威嚇と攻撃をしながら、突進と跳躍を繰り返す。だんだん動きのパターンは分かって来たけど、どうすれば……。


 気づけば戦闘を開始したあたりからずいぶん移動して足元は綺麗な草原が広がっている。


 次の突進で、再び口を大きく開け、数歩前で跳躍して飛び掛かってきた。


 キュストさんの教えを思い出す。


『少しずつでいい、敵の戦力を削いで行け』


 イチかバチかじゃだめだ。冷静に。落ち着いて。どうやって何をすればいい……。間合いを保ったまま考える。


「ギャン!」


 私は飛び上がりながらクロスさせた両手の剣で挟んで牙をへし折り、顎を蹴って半回転して着地した。


 キュストさん、ありがとう。こういう事だね。




 ラニゴの牙は欠け落ち、、上あごからは流血している。それでもラニゴは逃げることをしない。耳でも勝てると思ってるのか……。

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