第21話 つる草

 翌日の訓練の後、キュストさんはいよいよ大剣を新調するというので、私も鍛冶屋さんへ一緒について行った。デザインとかどんなのにするんだろう。


 鍛冶屋の店先で出会ったのはジョンナとフェンナだ。


「エリ! 久しぶり!」

「久しぶり。ちょっと会わなかったけど元気だった?」

「うん。フェンナの傷はまだちょっと残ってるけど大丈夫よ」

「ケガが治るまで姉ちゃんが休めって言うんだけどさ、自警団に早く入りたいし、すぐにでも強くなりたいしお金稼がなきゃならないし、探索は休まずに行ってたんですよ!」


 フェンナは相変わらずマシンガントークだ。元気そうでよかった。


「今、ケガをしたと言ったな」

「え、えぇ。でももう大丈夫っす!」

「自警団に入りたいなら、無理はしないことだ。君はまだ若いから、まずは体をしっかり作ることが大事だぞ。それに装備もだ」


 フェンナの靴はスモノチの牙が貫通して穴が空いていて、血の痕もシミになっていた。


「私もキュストさんの意見に同意です。無理しないでね」

「って、キュスト隊長ですか?」


 えっ、隊長?


「いかにもだ。ただし、今はこの通り休養中だよ」

「すごい! キュスト隊長とエリムレアさんの師弟コンビ!」


 師弟……コンビ?


「えぇっ?!」

「そんなに驚くなよ。哀しくなるじゃないか」


 しまった……。


 どおりで親身になってくれたわけだ。


「以前はお前たちの小隊をまとめていたんだよ」


 つまり、前の小隊長はキュストさんだったのか。先に言ってよ、もう。


「俺が別の隊へ異動して、モデトンがお前たちの小隊長になったと聞いた時は、嫌な予感はしたんだがな。俺が育てた部下たちを適当に使った挙句、エリに大怪我までさせやがって」

「でも、そのモデトン小隊長をエリが殴ったんですよね!」

「それを聞いた時は本当に愉快だったよ!」

「いいんですか? 上官がそんなこと言って!」

「ここだけの話ってやつだ。黙ってろよ?」


 キュストさんと一緒にフェンナが笑っている。


 勢いもあったけど、冷静になったらとても恥ずかしい。


「冒険者として探索の実績を積むことも大事だが、せっかく訓練施設があるんだから使うといい」

「はい! 頑張ります!」


 元小隊長で、エリムレアの師匠……。なら、何か知ってるだろうか。


 今夜食事に誘って、お酒が入った時に聞いてみようかなぁ。……ううん、さっきみたいにボロが出たらまずい。やめておこう。




 鍛冶屋では、キュストさんは前に使っていた大剣と同じものを注文していた。お店の方で保管されていたデザインの覚書を見せてもらったのだけど、つかにつる草の文様が描かれていた。


「綺麗な柄ですね。これ」

「記憶を失くす前も、同じようなことを言ってたぜ」


 ……この文様についてだけは、エリムレアが発言したの?


「なんて、どんな風にです?」

「ボソっと、『いいですね。この柄』とぶっきらぼうに」


 ぶっきらぼう……。


「この文様を描いたのは俺の姉だ。故郷で戦に巻き込まれて亡くなってしまったがな」

「その話をしたのは……いつですか」

「俺がまだお前たちの小隊長をしていた頃だ」

「お姉さんが亡くなったのは……いつですか」

「姉が亡くなったのはそれよりずっと前だ。……形見代わりにこうして剣の柄に入れてもらっている」


 キュストさんの剣……回収できないだろうか? 


 確か北東の草原の禁足地だったはず……。メルナさんに聞けば教えてくれるかな。


「さあ、帰るぞ」

「はい」




 職人街を抜け、寄宿舎へ続く道を歩いているとカンカンと鐘の音が響いた。


「招集ですか?」

「いや……ちがうな」


 キュストさんと共に広場に行ってみると、正規軍の伝令が戻ってきたそうだ。


 南方征伐がヨーン正規軍の勝利に終わり、デジエント共和国は不可侵条約に合意したとのことだった。


『キージェたちが帰ってくる!』


 ヨーンに戻るのは何日くらいかかるのだろうか。


「少しは平和になりそうですね~」


 いつの間にか隣にいたのは探索組合の受付嬢、メルナさんだ。


「だと嬉しいです!」


「デジエントの国境からはノイの足で休憩をはさんでも1日半くらいで帰って来れるだろう。キージェとアイリスを労ってやりなさい」


「はい!」

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