第18話 ナズナの覚悟
「お前、今の小隊長ぶん殴ったんだってな! 傑作だ!」
「……すみません。どちら様ですか」
「おっと、まだ記憶が戻ってないのか。難儀だなあ」
親し気に話しかけてきた男は、キュストと名乗った。見た目は37、8歳くらいで、エリムレアより12、3歳くらいは年上だろうか。以前は同じ小隊にいたらしい。
彼も、
食堂の給仕さんに話を通してくれたので、一緒に食事をすることになった。
「キュストさんの小隊は、警備班なんですね」
「いや、ウチの隊も南部に行ってて俺だけ居残りだ。お前が負傷したのと同じ日に北東の禁足地で足を負傷したんだよ。お互い酷い目にあったな」
「え……」
「傷は治ってるんだが、どうも動きが悪いんで残れという命令だよ」
「お大事にしてください」
「あ、そうだ。食後は訓練施設に行くが一緒にどうだい? お前だって今のままじゃ不便だろう」
……訓練施設ってことは、戦闘のリハビリだよね。
うーん……。足手まといと言われてしまったし、例え訓練でも私が行ってどうにかなるだろうか。というか、お風呂入ってぬいぐるみ作りたいんだけど……。
「難しい顔して考えててもどうにもならないんだし、とりあえず前みたいに体を動かそうぜ!」
うわー……断れない流れ。
「分かりました。では支度してきます」
「お、付き合いいいねえ。断っても良かったのに」
それなら先に言って!!!
戦闘用に身支度を整えて、寄宿舎から広場を抜けた先に訓練施設があった。
「自警団員はもちろんだが、登録前の冒険者も使っても良いところだから遠慮はするな」
「あ、はい」
キュストさんは受付で大きな両手剣を借りてきた。
「自分の剣は折れてしまってね」
「そうなんですか。修理とかしないんです?」
「回収を頼んだけど見つからなかった。お前も装備は定期的に職人街で見てもらったほうが良いぞ。肝心な時に大怪我をする」
そういえば、エリムレアも装備のベルトが壊れて……
「気を付けます」
訓練施設は体育館のような大きな演習場の建物があり、剣士用と弓術用と魔導士用、あとは団体での混合戦の広い闘技場に分けられていた。
かつてのエリムレアもキージェとアイリスとここに通っていたのだろう。
正方形の室内には、内側に円形の柵があり、その中が闘技場になっていた。
「んじゃ、手合わせ頼む!」
……
キュストさんが大剣を構え、私も左右の剣を構える。
同じような大剣でも、先日のガイダよりもどこか品がある立ち姿。そして蘇るあの日の記憶。
『……怖い』
「行くぜ!」
え?
素早い!
ギィン! と大きな音がなり、右手の剣が吹っ飛ばされた。ガイダなんかより優雅なのに凄い重い一撃。
「おいおい、本当にどうしちまったんだよ」
足が動かないって言ってたのに。こんなに素早いの?
「すみません……」
まだ手が痺れている……。
「いや、大怪我をしたあとだし、実戦だったら恐怖で体が動かないだろう……」
……そうだよね。
「だがこれは訓練だと言ったはずだ。最初から諦めてるのは俺だってわかるぞ? そんなんでキージェやアイリスを守れるのか?」
「え…………」
「なぜあいつらが不愛想なお前に付いて来てると思ってるんだ?」
それは……。知りたくても、分からない。分かりようがない。
「剣を拾え。戦い方まで忘れたなら、1から教えてやる」
「キュストさん……」
そうだ……自警団は退団になったけど探索は一緒に行こうと言われてる。アイリスの部屋にいつまでもお世話になるわけにはいかないし、生活費を稼ぐには探索は続けなきゃならない。
それに、つい先日はジョンナとフェンナを危険な目に遭わせてしまった。
入れ替わる前だって、ぬいぐるみだけ作っていて生活が成り立ってた? まだそんなレベルじゃなかったよね? たった一度作品がバズった程度でなんでもできる気になってなかった?
思い上がっていた自分が恥ずかしい。
……ヨーンで生活するためには強さがいる。大切な人を守るためにも強さがいる。生き神だって、エリムレアは日本でスマホの操作を練習しているって言っていた。生きていく準備をしている。
……覚悟を決めろ、ナズナ!
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