第15話 教訓

「なんか、数多くね?」


 荷台に乗せたスモノチは、ざっと51匹。……依頼は30匹だ。


 私は、この手でこんなにたくさんの命を奪った……。それも依頼よりも大幅に多い命を。身を守るためだったとはいえ気が滅入る。そもそも私が正しい狩り方を共有できていればこんなことにはならずに済んだはずだ。


 探索組合に報告に行くと、受付のメルナさんが仰天している。


「もしかして、スモノチの狩り方、ご存知なかったんですか?」


 獲物のスモノチも私たちも全員が血まみれ。


「え、狩り方ってあるんですか?」

「弓を持っていたから、てっきりご存知なのかと思ってました」

「エリムレアさんがいなかったら、俺達ヤバかったっす!」

「……私もすっかり失念してました」


 あ、そうだ!


「フェンナ、靴を脱いでズボンの裾を上げて」

「え、大丈夫です! こんなの唾つけときゃ治りますから」

「ダメ。手当しなきゃ」


 靴を脱がすと、中は血だらけ。相当無理をしてたんじゃないかな……。


 血を洗い流すと下あごの牙のものと思われる深い傷が2つ。


 メルナさんも出て来てフェンナの傷の度合いを見ている。


「スモノチは毒が無いですし、このくらいだったら治癒士を呼ばなくても大丈夫そうですね」


 アイリスは出立前に「万が一のために」と、傷薬を作っておいてくれた。


「包帯、これを使ってくださいな」

「メルナさん、ありがとうございます」


 アイリスの薬を塗り、応急処置用のガーゼを当て包帯を巻いて手当て完了。


「エリムレアさん、ありがとう!」


 蒼白な顔で心配そうに見守っていたジョンナはようやく安心したようだ。


「駆除の報酬はこちらでお支払いしますが、お肉の報酬は、肉屋のチカサさんのところで受け取ってくださいな」


「わかりました」




 依頼主であるお肉屋さんまで運ぶと、幸い余剰分も買い取ってくれることになった。


「ありがとうございます」

「それより、これ全部その剣で倒したのか……大変だったろう」

「えぇ……まあ」


 チカサさんが肉の代金を支払ってくれたので、それを3人で山分け。


「あの……チカサさん、すみません」

「なんだい?」

「毛皮……使わなければ頂戴したいのですが」

「ああ、構わないよ」

「では、手伝いますから捌き方を教えてください!」


 アイリスのように、自分で全てできるようにならなきゃ。私にとってスモノチの毛皮は大事な資源だ。


「わかった。……ひとまず、その血まみれ姿をどうにかしてきてくれ」


 チカサさんが苦笑しながら言った。


「俺達でノイと荷車は返しておきますよ! ついでにスモノチの狩り方教えてもらいます!」

「じゃあ、ここらで解散ね」

「ジョンナ、フェンナ、ありがとう。じゃあまた」

「エリムレアさん、またね!」

「あ、あのっ」

「ん?」

「エリって呼んでください」


 もっと近い距離で話したい。


「良いんですか! やった! 良かったな、姉ちゃん!」

「……よろしくね、エリ!」

「よろしく」


 姉弟は手を振った後、仲良く歩いていく。


 かけがえのない姉弟を守ることができたよ。


 単に剣にその姿が映っただけではあるけれど、勇気を出せたのはエリムレアのお陰だ。……ありがとう。イケメンは強い。




 一度着替えに戻ってから、再びチカサさんの店へ。


 捌き方を教わりながら手伝いをしていたら、少し燻製くんせいにして分けてくれるという。


「良いんですか?」

「手際が良いからワシも助かったからね。探索に行くときの携帯食にするといい」


 お母さんが離婚した後、代わりにご飯を作ってたおかげで包丁の使い方には慣れていて良かったな。


「エリムレアさんなら、包丁二刀流もできそうだな!」

「さすがに無理です」


 チカサさんが笑い、私も思わず笑った。


「では、革工房の帰りにまた寄ります」

「そうだな、その頃には燻製も出来上がってるだろう」


 チカサさんから借りた台車に51匹分の毛皮を載せて革工房へ。


 アイリスと狩った時は、毛皮に一切傷がない状態だったけど、今回はあちこち剣で刺した穴が空いている。痛々しい毛皮に私の胸も痛む……。


 でも……破損は痛いけど、これだけあれば当分はスモノチ狩りをしなくて済む!


 そして私は彼らの命を無駄にしない。肉は感謝しながら食べるし、普段は捨てられてしまうこの毛皮は、これから最大限に活用するからね。



 毛皮の量も多いから、肉と同様にこちらも腐る前に加工しなきゃだ。

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