第10話 自力調達へ
「え? 毛の生えた布なんかないよ」
「どこに行けば売ってますか?」
「そんなの作れる職人なんかいないから、どこに行ってもないよ」
「そう……ですか」
どうしよう……。服の生地を使うしかないんだろうか。でも……見回しても地味な色の無地の生地しか置いていない。
「うーん……」
「エリ、毛皮じゃだめ? あれなら最初から毛が生えてるよ」
「毛皮?」
「うん。革工房なら、もしかしたら防寒用の毛皮があるかもしれない」
そっか、毛皮……それでどうにかできると良いな。
職人街に来てから、先導して歩いてくれるアイリスに感謝だ。
「僕も革工房にも用事があるからちょうど良かった」
工房に入ると、動物の皮が大きな桶に無造作に入れられていた。
「よう、アイリス。今日は何を探してる?」
「えっと、僕は薄手のなめし革と、エリは毛皮」
「んじゃアイリスはいつもの棚だな。エリは……って、あのエリムレアか?!」
「え……えぇ」
「一体どうして毛皮の素材なんか。お前さんならあっちの装備工房のほうでオーダーすればいくらでも作ってもらえるだろうに」
「いや、あの……ちょっと自分で作りたいものがあって」
ふーん、と少し怪訝な顔になったものの、店の奥へと案内してくれた。
「ヨーンは
「ありがとう」
それぞれ端っこを手で触ると、毛並は良くても革の地の部分が硬すぎたり、地が柔らかくても毛が硬かったり、長すぎてトリミングが大変そうなものばかり。
「エリが欲しいもの見つかった?」
買い物を終えたアイリスだ。
「それが……」
「どんなのが欲しいの?」
「毛はこれくらいの長さで、革の厚さはこっちみたいに薄いもの。あと、毛の密度がもうちょっと少ないものがいいのだけど」
ふんふん、と触っていたアイリスが何かを考えている。
「それならスモノチがいいかもしれない」
「スモノチ?」
「別名土ネズミ。昨日の串焼きの肉だよ」
あのお肉、スモノチっていうんだ。覚えておこう。
「ルートンさーん! スモノチの毛皮ってある?」
「スモノチかぁ……ありゃさすがに無いよ。使い道ないから」
えー……。早速暗礁に乗り上げた。
「よし、じゃあ行こうエリ!」
「どこに?」
「スモノチ狩り!」
一度アイリスの部屋に帰り、支度をして市外へと出かけた。
「徒歩で?」
「うん。すぐ近くにいるから」
アイリスは弓も使えるし、狩猟はお手の物なのだろう。
「スモノチにはこの矢を使うんだ」
矢じりに何か筒状の物が付いている。
「これは?」
「
「へー」
「スモノチは耳が良いから、この矢が音を鳴らしながら巣の近くを通れば、驚いて失神するんだ。……あの土が盛り上がってる所は、全部巣の入り口」
アイリスの言う通り、土が盛り上がってるのがあちこちに見える。
狙いを定めて鏑矢を放つと、結構大きなホイッスルに似た音が響く。そして矢の軌道の先々で何匹か動物が跳ねあがって地面で転がった。
「すっごい!」
「とりあえずは1匹でいいかな?」
「うん!」
一番近くに倒れていたスモノチを素早く回収して戻ってきた。
見せてもらうと、ちょっと太ったアライグマみたい。顔は下顎の牙が長く伸びているがとても可愛い。毛色はグレーで模様は無し。もし染色できれば汎用性は高い毛皮だ。
触ってみると、欲しいと思っていた長さの毛足で、毛も柔らかくてモヘア生地の代用にするには十分だった。
「アイリス、理想の毛皮かも」
「そっか! んじゃ!」
グキっという音がした。
アイリスが、首の骨を折って仕留めた音だと、完全に脱力したスモノチを持ち上げた時に理解した。
……毛皮を必要とするならば、命を奪うのは当然だった。
「捕まえるのが簡単で肉が美味しいからさ、僕はこいつに命を助けられたんだ」
「命を?」
「僕は生きるためにこいつを狩って、肉を売ってパンを買ってさ。余った肉は自分で食べた」
話しながらナイフで綺麗に皮を剥いでしまった。
「これを革工房に持って行って加工してもらおう」
血まみれで笑顔を浮かべるアイリス。……いつか家族と再会できますように。
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