第11話 アイリス

 革工房で一旦アイリスと別れ、私は今後の事も考えて毛皮の加工を教わることにした。


「お前さん、自警団をクビになったんだって? 住むところがなけりゃうちに来ればいい。部屋は空いてるぞ」


 いつまでもアイリスの部屋に居候するわけにも行かないけれど……。


「少し……考えさせてください」

「そっか、まあ気が向いたら言ってくれ!」


 私たちがスモノチ狩りに出ていた間に工房の方で話に出たのだろうか。でも、それ以上の詮索をしないあたり、本当にエリムレアの身を案じてくれていたのだろう。


 仕上げた毛皮は理想通りで、アイリスに感謝しながら彼の家へと向かう。


 その途中、カンカンとけたたましく鐘が鳴り響いた。


 周囲がざわついたと思ったら、たくさんの人が市内各所からぞろぞろと現れた。


 キージェとグランも出て来て、私の腕をひっつかんで皆の向かう先へと歩く。


「来い、エリ。招集だ」

「私はもう行く必要ないのでは?」

「まあ、そうなんだがよ。何か思い出すかもしれないだろ?」


 自警団の団員たちは市内の広場に集まった。


 広場には綺麗に整列した人間が既に待機していた。


「整列してるのは正規軍だ。赤い腕章に金色の国旗の紋章が描いてある」


 市内にいる自警団が集まったであろうタイミングで、正面の壇上に一人の男性が上がる。


「あの人がヨーンの正規軍のピルーコ指揮官だよ」


 背後からアイリスの声だ。




「正規軍および自警団諸君。我々は明日、南方守備隊と合流してデジエント・古ヨーン派同盟軍征伐に向かう!」


 ピルーコ指揮官の声が響いた。……これは宣戦布告だ。


「ついに始まるかぁ」

「最近、南がうるさかったもんな」

「仮にデジエントがヨーンを制圧しても、古ヨーンにとっちゃ支配者が変わるだけだろ? なんで同盟結んでるのかね」

「さあな。良い条件でもチラつかせたんじゃねえの?」


 周囲の自警団の人たちがざわつく。


「出発は明けの5時だ。治癒士を除き解散。戻って各自準備しておけ」


 え、急すぎない?


 驚いてる間に、全員が右の拳を胸にあてるポーズ。ちょっとアイーンに似てるけど……敬礼かな?


「それじゃ、僕は残るから、みんなは昨日の店に行って。スモノチの肉を預けてあるから先に食べてて!」


 そう言い残して、治癒士であるアイリスはピルーコ指揮官の元へと向かった。




「治癒士はいつでも不足しているからな……。毎度直々に呼ばれるのもしんどそうだな」


 キージェがつまらなそうな顔でそう言った。


「アイリスはあの若さで腕がいいからな。やっぱ血筋かね……」

「血筋?」

「あぁ。あいつは北方のメーニスっていう種族の血を引いてる。大昔に治癒魔法を確立した血筋だ。それに加えて薬の知識もある」

「へぇ……」

「俺の攻撃魔法は学問として成立してっからな。勉強すりゃ大抵の者が使えるようになるが……治癒魔法だけは感性センスが頼りだ」

「アイリスは、俺たちが守らなきゃならんな」

「……そうだな」


 二人がやけに深刻な顔になった。

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