第8話 生きるために
「ただ、剣捌きは本当にカッコよくてさ。訓練施設で手合わせしてもらった時は痺れたなあ」
「僕たち、絶対勝てなかったよね」
「俺たちは魔法が専門だから、勝てなくていいんだよ!」
かつてのエリムレアを語る二人は本当にいい表情をしていて、見ていられない。
記憶をたどるフリをして頭を抱えて見せた。
「まあ、焦るなよ。そのうち思い出せるさ」
そういう二人の優しさが胸に痛い……
探索を終えて自室に戻ると、諮問委員会から手紙が届いた。
「エリムレア・フラレット、記憶障害により戦力外とし、自警団の退団を命ずる。よって、本状到着から翌日までに腕章を返却し、寄宿舎から退居すること」
私にとっては苦手な戦闘をしなくていいということだから、とてもありがたいことだったのだけど……
「退団は残念だけど、探索は一緒にいけるからさ」と、明らかに無念そうな顔のキージェ。
「ま、小隊長殴ったことはお咎めなしだったし、良かったじゃん!」
アイリスはポジティブ思考なのかな?
しかし、退団に伴って自分の部屋を退去になったため、しばらくの間はアイリスの部屋に居候させてもらうことになった。
「どうぞ! 少し散らかってるけどキージェの部屋よりはマシだから」
と、通されたアイリスの部屋は、エリムレアの部屋同様、とても殺風景だった。違っていたのは少しだけ広くて、窓辺に机が置かれていて、そこにはたくさんの瓶とドライフラワーの束が置いてあった。
「あ……、これは薬作ってる途中ね。材料が少し足りなくて明日一緒に職人街で買おうと思って」
ちなみに、ちらっと覗いたキージェの部屋は本がたくさん床に積んであって、その本は全部魔法の勉強と研究のためらしい。日頃から本の海で寝てるような生活だとか。
そして待ちに待った職人街の営業日。
「アイリス、職人街連れてって!」
寝起きのアイリスが髪を編んで支度をしている。
「んー、この時間はまだ店の方は開いてないから近場の探索行ってからにしよ」
お店が開いてないなら仕方がない。
てきぱきと身支度を整えているアイリスの横で、私も装備を身に着け支度をする。
二人で探索組合の掲示板まで行くと、キージェが誰かと話をしていた。
「よう、エリ! アイリス!」
「やあグラン!」
エリムレアを「エリ」と呼ぶということは顔なじみなのだろう。
「……どうも」
「うわ、エリが喋った! 噂はマジだったんだ」
「……グランがさ、エリの噂を聞きつけて助っ人に来てくれるってよ」
それは心強い!
「エリの代わりには遠く及ばないかもしれんが、やっぱり先陣切れる奴がいたほうが良いと思って」
「頼りにしてるぜ」
グランは黒髪で鳶色の瞳をした大柄な青年で、腰にはエリムレアと同じ長さの剣を下げ、盾を背負っていた。
「グランは盾を持ってるから受けるダメージは少ないね!」
「はは、治癒士の足を引っ張らないのも大事だぞ。今、キージェにも話してたところなんだが、エリが抜けた穴を埋めろと、俺がそっちの小隊に編入されることが決まったんだ。どうせなら探索も一緒にやらせてもらおうと思って。一人より援護の魔導士と治癒士がいる方が断然安心だし」
「そういうわけ。つーことで今からグランも仲間ってことで!」
「よろしく、グラン」
「……本当に不愛想なエリがこんな挨拶……不憫だな……」
私は早く針と糸と布が欲しくて泣いてしまいたい。同情するなら針を……道具を材料をください……。以前はお裁縫を休んだことなんてなかったから変な焦りが生まれてきている。
「で、今日の探索はこれだ! 短時間で終わって報酬も良い」
キージェが既に受けて来てた依頼内容は――
なんじゃこりゃ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます