第7話 探索業務
やっと当初の目的への一歩。
「それなら職人街だな。あそこなら色んな資材も扱ってる」
「んじゃ、僕も買いたいものあるから、
「明日は?」
「明日は職人街が休日なんだ」
そっか……でも休日は大事!
「じゃあ明後日にぜひ!」
食事を終え、寝る前にサッパリしたくてお風呂の事を尋ねたら……なんと宿舎の裏庭に露天風呂があるという。
キージェが「どうせなら3人で行こう」って言いだした。
「アイリスも?」
「ん? もちろんだけど」
そこはちゃんと
というか、私だって恥ずかしい。でも、この体にも早く慣れなくちゃいけない……。
というか、キージェだって裸になるわけでしょ? ……色々と複雑な気持ちではあるけど……私がナズナということがバレてはいけないし……
「じゃあ……3人で」
覚悟を決めて3人で露天風呂に入った。
……でも、ナズナ時代じゃ味わえなかった爽快感でこれは癖になりそうだった。ひゃっほー!
というか、アイリスは女の子じゃなかったんだね……。てっきり僕っ
「明日は探索に行くから今日と同じ装備で待っててくれ」
「わかった」
「おやすみ!」
二人と別れて部屋に戻り、ベッドに転がる。
『諮問委員会かぁ。自警団をクビになるなら、私はその方がありがたいな』
戦闘、という慣れないことをして普段よりとても疲れていた。灯りを消したら一瞬で気を失うように眠りに落ちた。
その代わり、ガイダとの戦闘を何度も夢に見ては汗をかいて飛び起きては体が震える。それほど怖かった。恭子に腹を刺されたのなんて可愛い出来事だ。
恭子の事も含めて……全部夢だったことにならないだろうか。
……頬をつねっても覚めることのない夢。
『せめて獏がさっきの悪夢を食べてくれますように!』
そして、寝起きにスマホを探す癖は当分抜けそうにない。
昨晩教えてもらった柱の時計を確認すると、空は暗いけど既に1日は始まっていた。
この世界の時間は、日本と同じくらいで刻んでいて、だいたい1時間は日本の1時間と同等。エリムレアの脈拍でカウントしたから多少の誤差はあると思うけれど……。1日は26時間あるので、少し長い。
迎えに来たキージェと共に宿舎を出ると、アイリスも途中で合流し、ノイ厩舎の横にあるという探索組合へ。
「探索依頼はここで受けるんだけど、そうだなあ……」
掲示板に貼られたものを確認して、キージェが選んだのは「
「いいね、これなら休憩中にトネッカも採れる!」
「トネッカ?」
「薬の原料の草なんだ! ちょうどそろそろ無くなるところだった」
「そう思ってさ。アイリスと一緒に行動してたら、俺も薬草の群生地を覚えちまった」
「ふふっ。あと、あの辺りはエリが好きな木の実も採れるよ」
あぁ……。エリムレアはこんなにお互いをよく知って、愛してくれた人がいたのに、どうして私なんかと入れ替わろうとしてしまったのだろう。
エリムレアは、友達にも、この外見と身体能力にもとても恵まれていて……申し訳ない気持ちになった。それに私が入れ替わりを望まなければ、キージェとアイリスは余計な心配をすることもなく、いつも通りの日常を送っていたのに……。
それと同時に、私は記憶を失ったエリムレアをずっと演じ続けることを決めた。記憶は戻らない。それを貫こう。
探索作業は、動物のツノや骨が青く透き通って石のようになったものを分類しながら採集していく。
細かい分析を学者が行うため、結晶化している所だけじゃなく丸ごと持ち帰るのだそう。
なので今日はノイに荷車を引かせたノイ
今日の探索は危険度が低いそうで、それほど緊張感がなく、最初こそ採集の方法についての授業で、後は黙々と骨青結晶の採集作業。幸い単純な作業だった。
「そろそろ休憩しようぜ」
キージェが携帯用のビスケットと干し肉と固形スープを取り出した。
キャンプ道具を広げて、キージェが鍋でお湯を沸かしてキューブ状のものを入れてスープを作ると、アイリスが薬味の乾草を入れてくれた。
即席なのに、凄い美味しい。
「ちなみに、これはエリが好きな携帯食メニューな」
「あと、これも!」
アイリスがすぐ後ろの茂みから、手を伸ばして黄色い実をもぎ取った。
そういえば、二人ならエリムレアの過去を知っているのだろうか。
思い切って尋ねてみたのだけれど……
「出会ってからの事しか知らないかなぁ」
「お前は本当に何も言わなかったから」
そうなんだ……。
「じゃあ、キージェとアイリスは
「僕は何でも屋をしてた」
「何でも屋?」
「子供の頃、戦で家族と生き別れちゃってさ。生きてなきゃ再会することもできないから、仕事はなんでも請け負ったよ」
「だからアイリスは器用なんだよなあ」
「その代わり戦闘じゃ2人には敵わないよ」
「キージェはどうして冒険者に?」
少し困った顔のキージェが話し出す。
「俺は……王都ギンナザメリスの魔法学院出身。んで、親父や兄貴と折り合いがつかなくて家を飛び出して現在に至る。以上!」
「もしかして、キージェってエリートなの?」
「……エリートだったら真面目に学院で教壇に立ってるさ」
にやっと笑うキージェの顔が、少し重くなりそうだった雰囲気を落ち着かせた。
「エリは……話しかけても頷くか首を振るかで、喋れないのかって思ったくらいさ」
「最初はちょっととっつきにくい感じだったよね。今みたいに饒舌だったらモテモテだったと思うのになー」
本当に何も語らない人で、あの手記くらいしか彼を知る手掛かりはなさそうだ。
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