第6話 この世界の事
「……本当に色んな事忘れちまってるんだな。太陽が出てるのはほんのわずかで大体空は星の時間だよ。ほら、見てみ」
キージェが指差した路地には、ガス灯のようなものが等間隔に立っていて青白い炎が街を照らしている。そして足元からも淡い光が……。さっきまでの赤い街並みはすっかり青白くなっている。
「暗いから、どこの集落や町の路地にもこの
「……ほんとだ。すごい」
幻想的で美しい街並み。……私、本当に違う世界に来ちゃったんだなあ……。
「よし、飯食いに行くか!」
「そういえば、お腹空いてるね」
「エリ、出発前は何か食ったか?」
「ううん、だからお腹ペコペコ」
「ペコペコ?」
……もしかして、この擬音は日本語特有の物だろうか。
寄宿舎の食堂や、エリムレアを含む3人の行きつけの店は避け、個室のある〝山の蛍亭〟という酒場を選んだのはアイリスだった。
「……エリは有名人だからね」
料理が全部運ばれてから、アイリスが話し始めた。
「有名人?」
「うん。顔見知りに聞かれたくないし。……どうせあの小隊長がベラベラ喋っちゃってると思うけれど。少し、エリのことを確認したくて」
そうだ、私の事といえば……。
「あの、私はぬいぐ――」
「エリはね、白銀の双剣士って巷じゃ有名なんだよ」
「やだ、かっこいい二つ名」
「お前なぁ、他人事みたいに」
だって、他人だもん。
「エリ、どこからどこまで思い出せない?」
「えっと……全部が……わからない」
わざとらしいと思いつつも、頭を抱えて見せた。
「マジかよ。しょうがねえなあ」
「倒れた時に、頭打ったのかなぁ」
アイリスが鞄から使い込まれた地図を出してテーブルに広げた。
「説明はキージェの方が上手いと思うから任せた!」
「よろしくお願いします」
「エリ、僕たちに敬語は無用だってば」
アイリスの地図を指差しながらキージェが話し始めた。
「ここはギンナザムっつー国で、大陸の中央に位置しているから隣国に囲まれている。常にどこかしらで戦やら小競り合いが続いてて、それぞれの自治体では正規軍の他、自警団を
あんまり平和とは言えないところだ……。
「自警団は冒険者の実績があれば自薦で登録できて、功績に応じて報酬とか称号も得られる。軍と違うところは平穏な時は何をしていても自由ということ。でも非常事態が起きた場合は、自警団は正規軍と連携をとるんだ」
「今日みたいにね!」
「自警団に在籍していれば、寄宿舎に部屋を持つことができるんだ。だから腕の立つ冒険者が、町に拠点を置くために自警団に登録をしてる。もちろん俺達もそう」
「冒険者は、正確に言えば世界の神秘を追い求める探索業務を生業としている者たちのこと。そしてヨーン市の周辺はその神秘の宝庫!」
冒険……神秘の宝庫とか、すごい面白そう。
「自警団より、冒険者の方が楽しそう」
「でも、冒険者だってそれなりに危険と隣り合わせだからね」
あぁ……きっとドラゴンとかゴーレムとか強そうなのがいるんだろうなあ。
「ヨーン市は、元々は中央政府から派遣された学者が作った小さな集落だったんだけど、
「禁足地? 古ヨーン?」
「禁足地はヨーン市周辺の土地のあちこちにある遺跡のことで、現地の人はロメールって呼んでる。古ヨーンは大昔にこの地にあったって言われている都市だよ」
「つまり、ギンナザムは古ヨーンの末裔たちから見れば侵略者なんだよ」
「……もしかして、今日の制圧って」
「そ! あの連中は古ヨーンの末裔と、その支持派の人間だ」
えー……なんか複雑。
「でも、俺達や多くの人がこの地の謎を解き明かしたいって思っている。だから自警団や冒険者には古ヨーンの末裔も何人かいる」
「僕たちは学者じゃないけど、大昔に何があったのか知りたいからね」
アイリスは肉の串焼きにかぶりつきながら、大きな瞳をキラキラと輝かせている。
「でも禁足地は資源の宝庫でもあるから、他国を含めて争いが絶えない。……って、この手の話をすると特に何も言わなくなるエリから反応があると、すごい複雑な気持ちになるな」
「あ……なんかごめんなさい」
「良いよ、そのうち思い出して元通りになったらネタにしていじってやるから」
キージェが不敵に笑い、彼も肉の串焼きを手に取った。
「さあ、エリも食おうぜ」
さっきから何かの香辛料の香りが食欲をそそる。
「頂きます」
私も串焼きを頬張る。……うわ、なにこれすごい美味しい! ジューシーだし香辛料の香りが鼻に抜けると肉の味が一層際立つ。
串焼きも、パイのような包み焼きも、野菜の盛り合わせも、果実酒も、全て美味しい。
エリムレアの体はお酒に強いのか、普段なら飲まない量のお酒を飲んでも全く酔わない。
「他に、何か聞きたい事あるか?」
よくぞ聞いてくれた!
「布とか裁縫道具売ってるところを知りたい!」
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