第21話 入学式
入学生の総代表としてオズワルドが後ろに従者を控えせ大講堂の演台に立ち挨拶をしている。
大講堂の左右には歴代の高名な魔術師の像が林立しており、荘厳な雰囲気を漂わせてた。オズワルドにはそんな空気に気圧される気配は微塵もない。
魔法を極め、帝国に安寧をもたらし、魔族に打ち克つために克己奮励することを誓っていた。
言っていることの中身も態度も立派である。
多くの者が聞きほれていた。リーアもその中の一人である。
顔も頭も性格も良くて、身分は皇子とか神様は才能その他を与え過ぎじゃないか。
オズワルドの端正な横顔を俺は見つめた。
俺と同じなのは年齢ぐらいか。
オズワルドは本来であれば昨年に入学資格があったのを業務多忙とのことで一年遅らせたため、他の生徒の多くよりも一歳年上だった。
頭の中身までは分からないが、顔は間違いなく向こうが上。俺のお
すべてにおいて下回ってるとか専用機と量産機じゃねえんだからさ。
また、謎の単語が頭に浮かんだ。
なんか頻度が増えているし、俺はどこか体の具合が悪いのかもしれない。
これで健康面までこっちが下とかなったら、本当に誇れるところが無くなってしまう。
オズワルドの言葉が終わると万雷の拍手が起こった。
この調子からすると皇子という立場におもねるというわけでもないらしい。
まあ、そうだよな。あら捜しをしようと思ってもケチのつけようがないスピーチだった。
いれ代わりに学園長が壇上で歓迎のあいさつをする。思慮深そうな顔をした老女だった。カーラ・ボーネルン学園長は予想に反してあまり長々とはしゃべらない。
「皆さんが成長して、魔法使いの仲間入りをすることを期待しています」
早々に挨拶が終わって俺はほっとした。これであくびをかみ殺さないですむ。
講堂から出ると学園長カーラが佇むそばにある光輝く門を新入生とその従者が一緒に潜っていた。
リーアと俺もその列に並ぶ。
門を潜ると姿が消え、中庭へと瞬間移動する。大きな大理石の敷石のマス目に合わせた五つの五列八行の方陣へと次々に振り分けられていった。
俺たちの番になり門を潜ったと思うと中庭にいる。横でリーアがぶつぶつ言っていた。
「これぐらいの水平距離の転移なら容易ではないにしても……。でも、これだけ連続で座標も変わるとなると、さすがは名高いカーラ学園長というところかしら」
俺は周囲を見回す。
同じグループの中には、皇子オズワルドも例の三派閥の代表も居なかった。そして、ジェシカの姿もない。
目を凝らすと三派閥の代表は他のグループに均等に配置されているようだ。ただ、取り巻きはバラバラになっているように見える。
次々とマス目に生徒が割り振られ、クラス分けが完了した。リーアは第四グループになる。この数字の大小には意味がないらしい。
それぞれ二人の魔術師に率いられて、教室へと移動する。
教室は百名は入れそうな大きさがあった。
前の方には机と椅子が置いてあり魔術師見習いの席、後方は椅子だけの従者の席という構成になっている。
魔術師見習いの机の端には光の柱が浮かび、名前を表示していた。俺たち従者の席は自由ということらしい。俺がリーアを見るのに良さそうな席に座るとキャロルが当然のように横に座り耳打ちしてきた。
「第四グループには三大派閥に属する者が最低一人はいるようです」
「あれだけの人数の顔が識別できるなんて凄いな」
囁き返すと唇の端を少しだけ上げて頭を下げる。
魔術師見習い四十名の自己紹介が終わるとそれなりの時間が経っていた。
俺の見るところ、リーアほどの大きさで形の良いソウルペブルを持っている者は他に居ない。魔法学園で才能を開花させソウルペブルが大きくなる生徒もいるようなので、最終的にはどうなるか分からないが、現時点での魔力量では圧倒的にリーアが多いようだ。
翌日からの諸注意が終わると解散になる。本格的な授業は明日からということらしい。
教員が出て行くと、教室内のそこここで輪ができた。改めて自己紹介をして頭を下げるのに忙しい。
これから一年間、一緒に課題を乗り越えていかなければならない相手なのだ。
潜在的にはライバル関係ではあるものの、協力しなければならない場面も多いと聞いている。
例の三派の取り巻き連中は早々に部屋を出た。すでにグループができているので、改めてつるむ必要を感じず、自分たちのボスのいる部屋へと移動していったのだろう。
周囲の魔術師見習いと挨拶をしているリーアを見るともなしに見ていると、講義室がざわめいた。
前の入口から律動的な歩みで金髪の貴公子が入ってくる。後ろにはダークブラウンの髪の男を連れていた。学園でもっとも目立つ二人連れは、リーアの方へとわき目もふらずに近づいて来る。
俺は周囲の注意を引かない程度の速度でリーアのところへ向かった。少し遅れてキャロルがついてくる。
「今日の昼食のメニューはなんでしょうかね?」
「入学式当日なんだし、少し豪華なんじゃないか」
お互いに意味はない会話をしながら歩いていた。あと数歩のところまで近づくと皇子がリーアに話しかけている声が聞こえる。
「初めましてお嬢さん。私はオズワルドだ」
「リーア・シュタインと申します。お目にかかれて光栄です。殿下」
オズワルドは髪を振って朗らかに笑う。
「ここでは一介の魔術師見習いのオズワルドだ。ぜひオズワルドと呼んで欲しい」
「仰せのままに。オズワルド様」
「オズワルド」
「それではあまりに……」
「学園長に聞いたよ。今年の入学生の中では一番の実力者ということじゃないか。いずれ卒業すれば帝国を支える偉大な魔術師の一員となることは間違いない。今のうちから気軽に名を呼び合える関係になりたいと思っているのだがどうだろうか?」
「過分なお申し出ですが、私などでよければ仰せのままに」
「そうか。それは喜ばしい。では、リーアと呼んでよろしいかな? 昼食を共にしながらお互いの理解を深めたいと思うが、ご一緒いただけるだろうか?」
ぱっと顔を輝かせるオズワルドの髪はまるで金粉を振りまいているようだった。
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