第058話 予定は変わるもの
バーベキューでお腹いっぱいになった俺たちはしばらくの間、來羽が入れてくれたお茶を飲んでまったりと過ごした。
「それでは午後からは訓練に向かいたいと思います」
一時間ほどのんびりとした後にすみれさんが遂に訓練を始めるという。
「私はお留守番ですか?」
蛍が手を挙げて質問する。
訓練があるから途中一人でいることになるかもしれないと言っていたので、蛍もその時が来たのかと気になったようだ。
「いいえ、蛍ちゃんにも一緒に来てもらうつもりです。辛いかもしれないけど、ついてこれるかな?」
「大丈夫です!!」
「その意気やよし!!」
しかし、すみれさんは蛍を一緒に連れていくようで、妹も乗る気になり、体の前で握りこぶしを作って返事をした。
來羽さんもその様子をみて満足げに微笑み、蛍をヨシヨシと撫でる。妹も満更ではなさそうに表情を綻ばせた。
あれ? 話と違うぞ。訓練に蛍は連れて行かないという話だったはずだ。
「い、いや、それは蛍にはちょっと危ないんじゃないですか?」
俺抜きで勝手に話を進められていくので止めに入る。
ただ、訓練がおかしいから連れていけないなどとは言えないので、訓練の危険性を訴えかけた。
これならすみれさんもおいそれと連れていくとは言えないだろう。
「ちょっと大変かもしれないけど、危ないことはないわ。もし何かあっても私が責任を持って無傷で蛍ちゃんを家に帰すから安心してちょうだい」
「……すみれさんがそこまで言うのなら分かりました」
しかし、俺の予想に反して、すみれさんが真剣な表情で蛍の身の安全を保証してしまったので、それ以上は何も言えなくなってしまった。
「それじゃあ動きやすい服装に着替えてコテージの前に集合してね」
「「「分かりました(分かった)」」」
俺は観念して返事を返すと、ジャージに着替えて戻ってきた。俺と來羽と蛍は学校指定のジャージで、すみれさんは変わらずアウトドアな服装をしている。
「それじゃあ、それぞれこの荷物を背負ってね。蛍ちゃんの分は泰山君が持つこと」
「分かりました。ちなみにこれって何入ってるんですか?」
すみれさんの前には人数分の大きなリュックが置いてあって中身が気になった。
「もし遭難してしまった時に必要なものよ」
「遭難!?」
「大丈夫よ。この結界内で遭難したとしてもすぐ分かるようになっているから。念のためってことね」
「そうですか、分かりました」
ちょっと聞き捨てならない熟語に過剰反応してしまったが、大丈夫そうなので何かを言うのは止める。
「お兄ちゃん私もそれ持ちたい」
しかし、いざ出発するという段になって、蛍が自分の分のリュックを持ちたいと言い出した。
「えぇ~!? これ相当重いぞ?」
蛍の願いにびっくりして叫んだ後、俺は心配しながら妹を見つめる。
中身は色んなものが入っているせいか結構な重さがある。俺は身体強化できるから問題ないが、小学生の子供が持つにはかなり負担がかかるものだ。
おいそれと背負わせるわけにはいかない。
「大丈夫。無理そうなら言うから」
「分かった。無理なら本当にすぐに言うんだぞ?」
「分かってるよ。絶対に言うって約束する」
「そうか、それならできるところまでは自分で持てはいい」
が、妹の真剣な様子十分にに念押ししながら許可を出すことにした。
妹にあまりに過保護にしすぎるのも良くない。それじゃあ蛍の自主性が育たなくなってしまう。今でもすでに十分な自主性があってこれ以上必要なさそうだが、やりたいことはやらせてあげようと思う。
危なくなったら助けてやればいいんだから、俺の前でやってくれれば問題ないだろう。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「お兄ちゃんだから当然だ。気にすんな」
嬉しそうに喜ぶ蛍の頭を俺はポンポンと撫でた。
「それじゃあ出発するわよぉ」
「「「はい(はーい)」」」
それから全員がリュックを背負ったのを確認したところで俺たちは湖畔から出発した。
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