第057話 バーベキューと料理を作るようになった理由
俺たちがバーベキューをするのはコテージの窓から出た先にあるウッドデッキ。
火の点いた炭でしっかりと熱した網に串を置く。
―ジューッ
小気味好い音と香ばしい匂いが辺りに広がり、俺たちの鼻腔を擽った。
「良いにおーい!!」
蛍も鼻をスンスンとさせてその匂いを嗅いではしゃぐ。
「ああ、本当にな」
「焼いている間はこっちを食べるといい」
「サンキュー」
俺が返事をすると、隣から來羽が料理を盛り付けた皿をくれたので礼を言って受け取った。
音頭を取ったすみれさんはと言えば、ウッドデッキにある背中をしっかり預けることができる椅子に座り、優雅にワインらしきものを開ける。
その彼女にも來羽が料理を持って行き、サイドテーブルに料理を置く。すみれさんはその料理をちまちまと食べながらワインで流し込み始めた。
「うーん、やっぱり美味しいわね!!」
上手い料理と酒にご満悦と言った様子だ。
これから訓練をするというのにそれでいいんだろうか。
一方俺達は、四角いテーブルに長椅子のあるところに座って料理を堪能する。
「美味っ!!」
すみれさんをぼんやりと見ながら料理を口に入れると、その美味さに思わず言葉を発してしまった。
「よくできたね!!」
「うん、上手くいってよかった」
二人も自分たちで食べてお互いに満足そうな顔をしながらモキュモキュと食べている。
「あ、そろそろひっくり返し時かも」
「了解」
モグモグと料理を食べている二人に変わり、1番近いところに座っていた俺が串をひっくり返す。
程よく焦げ目がついてひっくり返すと同時にさらに食欲をそそるスパイシーな匂いが立ち上った。
來羽が妹と仲良くしてくれたおかげでどんどん料理が上達している気がする。とてもいいことだ。
それからもう少し焼いた後で食べごろになった串をさらに乗せて全員に配った。
串にささった肉を豪快に食いちぎる。
「肉汁がジュワっと出てきて凄く美味しい!!」
「美味い!!」
「いい味」
來羽たちは串から食材を取り外してから食べる。
他の料理よりもいっそう嬉しそうな顔をしているから、期待以上の出来だったのだろうな。満足そうで何よりだ。
「ふぅ~、満腹満腹」
「食べすぎちゃったかも!!」
「私は丁度いいくらい」
「はぁ~、良い料理だったわね」
俺も含めて全員がバーベキューをこれでもかと楽しんでご満悦と言った様子だ。
これが俺と蛍だけだったらここまで満足させることもすることもできなかったかもしれない。
それを考えれば一緒に連れていくことを提案してくれて、バーベキューも準備してくれていたすみれさんは頭が上がらない。
「そういえば、來羽が料理をしているを見たことあるけど、すみれさんが作っている所はみたことがないな」
來羽と蛍が料理している姿を思い出した時、そんなことを思った。
「あら、私の手料理が食べたいのかしら?」
「そ、そりゃあ食べたくないと言ったらウソになりますけど……」
すみれさんがいつの間にか俺に隣にやってきてしなだれかかりながら問いかける。こんな美人の手料理なら誰だって喜んで食べたいだろう。むしろ、食べたくないという人は逆に見てみたいわ。
「それじゃあ今度――」
「止めた方がいい。すみれの作るものは殺人兵器だから」
「え?」
すみれさんも乗り気になって手料理を振る舞ってくれようとしたんだろうが、話している途中で來羽によってインターセプトされてしまった。
ただ、來羽の言葉を無視するにはあまりに物騒過ぎた。
「えぇ~!! そんなことないでしょ」
すみれさんは突然しゃべりを遮られて不満げな顔をしながら來羽に抗議する。
「私が初めてすみれの家で食べさせられたのは真っ黒な炭だった」
「い、いや、あれはぁ……」
しかし、來羽のあまりに実感の籠った返事に、すみれさんは視線を宙に彷徨わせた。
あ、これは絶対食べたらダメな奴だ……。
異世界にもいたんだ。いかにも料理ができそうなメイドさんなんだけど、その人の料理はアンデッドでさえも避けて通るほどの危険物だった。
彼女の料理でアンデッドが入ってこないようにバリケードを作ったこともあるくらいだ。最もそのメイドの彼女は凄く不満そうだったが。
「あの日、私は自分で料理を作ろうと決意したの。この人に料理を作らせちゃいけないって」
「ま、まぁそんなこともあったりなかったりするかもね……」
來羽が珍しくどこか遠くを見ながら語るその姿には影があった。すみれさんは冷や汗をかきながら暫く苦笑いを浮かべていた。
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