第053話 入眠訓練
二人の柔らかさと香りは眠りについていた俺の下半身のドラゴンを呼び起こすには十分で、ゆっくりと首を起こそうと動き出す。
くっ、静まれ、静まるんだ!!
俺は必死に念じつつ、頭の中に異世界でバラバラに散らばったゾンビの臓物や体の一部などを思い浮かべ、ドラゴンの封印を行う。
しかし、外部からの刺激はずっと与え続けられているので、拮抗して現状維持となり、半分目覚めている半覚醒状態が維持されていた。
「ど、どういうことですか?」
「ふふふっ。この程度で動揺していては眠ることはできないわよ?」
このままではいけないと、すみれさんに真意を問いただそうとするが、彼女は小悪魔のような笑顔で答えをはぐらかす。
すみれさんの言葉を以前のそのまま受け取るとすれば、これが訓練ということになる。
つまりこの状況で眠れってことか?
いや無理でしょ!?
俺は早々に諦めそうになる。
「ふふふふっ。そんなに簡単に諦めていいのかしら? 訓練を突破をするごとに報酬を出すわよ?」
「きゅ、給料は出ないんじゃ?」
すみれさんがそんな俺を見透かすように囁いた後で目の前にニンジンを垂らした。事前の話では出ないと聞いていたため、ドラゴンが覚醒しそうになるのを堪えながら驚きの視線を送る。
「これは依頼と同じだから給料ではないわ」
「屁理屈じゃないですか!!」
どっちもそれほど変わりないので思わずツッコミを入れてしまった。
しかし、報酬を貰えるというのではあればこれは頑張らざるを得ない。頑張って寝るというのは真逆な方向性の気もするが。
ただ、妹を楽しませ、楽をさせるにはお金があるに越したことはない。それが貰えるというのならなんとか頑張る他ないだろう。
「ふーっ」
「ひぇ!?」
しかし、耳に絶妙な強さで息を吹きかけられ、全身を寒気が駆け巡る。それだけで拮抗状態になっていた封印が弱まり、再びドラゴンが目覚め始めた。
なんという破壊力なんだ……。
俺の封印術―ゾンビ想像術―はやすやすと突破されてしまった。
こうなったら強制的に遮断するしかない。
俺は目を瞑り、息を止める。そして、両手が塞がっていて鼓膜を破れない事実に気が付いた。そこで、全力の耳抜きで鼓膜を破壊した。妹のためなら鼓膜が破れた痛みなど忘れてしまえるし、息だってずっと止めてみせる。
ふっふっふっ。これで味覚と触覚以外の感覚で俺を惑わすことはできない。
これなら勝つことも難しくないはずだ。
俺は勝利を確信した。
―ムニムニッ
しかし、俺は残った二つの感覚、特に触覚の方を甘く見るべきではなかった。
三つの感覚を封じていてもそれまでにやっていたことから自分の体に当たっているものが何か想像できてしまう。
そのため、俺の腕を取って引き寄せられた後、物凄く柔らかい何かとほんのりと柔らかい何かに手が包まれたのを感じると、それが二人の夢が詰まったおっぱいだと理解して、見えないのに脳内で二人の胸に腕に挟まれている様子が再生され、半分起きているドラゴンの封印が完全に溶けそうになる。
こんなことで負けるわけにはいかない!!
俺はゾンビ想像術に加えて禁断の秘術を発動する。それは汚物想像術。
異世界では、国としては一つしか残っていなかったけど、各地に隠れ住む集落のようなものがあった。そこは本当に中世ヨーロッパの街のようで、人々の汚物が道端に捨てられていて、その匂いが充満していて現代人である俺にはかなりきつかったことを覚えている。
俺はダブル想像術を駆使して下半身のドラゴンへの封印を強化した。
今度こそこのままいけば眠れるはずだ。これでご褒美の報酬はゲットだぜ!!
俺は心の中でほくそ笑む。
しかし、二人の封印の解放がそんな程度で終わるはずもなかった。
次の瞬間、まるでお日様に干したふかふかの布団のように柔らか感触が顔の左右に覆いかぶさった。
それはまさに甘美の感覚であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます