第049話 強化合宿

 その日の夕食の時、蛍にバーベキューにはいけないことを話す。


「えぇええええええええっ!! バーベキューいけないの!?」

「悪い!! ゴールデンウィークは職場の合宿が入ってしまってな……」

「……それはしょうがないね……」


 案の定蛍はシュンと肩を落として悲し気な顔になってしまった。


 はぁ……こういう顔になるだろうから言いたくはなかったんだけど、言わないわけにはいかないからしょうがない。


「あ、でも、すみれさんが蛍を家に一人にするのは危ないから俺と一緒に来てもいいって言ってたぞ?」

「ホント!?」


 しかし、悪いことばかりでもない。


 すみれさんから渡されたしおりを見る限り、専用の宿泊場所に泊まるらしいし、外にも調理場あるらしい。


 実質アウトドアみたいなものだ。


 ゴールデンウィーク中はどこに行っても滅茶苦茶こむことになるだろう。それを考えれば合宿専用の場所があるということは快適に過ごせるはずだ。


 むしろ自分で探すよりもいい結果になったような気がする。


「あぁ。バーベキューもできるって言ってたから一応できるはずだ」

「そっか。それなら良かった。ホントはお兄ちゃんと二人が良かったけど……」

「そうか……ごめんな。俺から言い出したのに……」


 そんなに二人が良かったかと思うと、やっぱり悪いことをしたなと思ってしまう。


 家族以外がいるというのは色々気を遣うのは間違いないからな。


 俺は申し訳なくなって頭を下げた。


「ううん、いいの。お兄ちゃんは私のために一生働いてくれてるし、色々考えてくれてるんだから」

「ははははっ。蛍は本当にできた妹だな」

「えへへ。そんなことないよ」


 しかし、妹は首を振って気にしないでと言ってくれる。


 俺は妹の優しさに嬉しくなって近くに寄って頭を撫でると、妹は嬉しそうにはにかんだ。


「そんなことあるんだよ。こんなに我儘の言わない小学生はいないと思うぞ」

「そうかなぁ」

「そうなんだよ。バーベキューの件はどこかで埋め合わせするから許してくれよ」

「もう気にしなくていいのに」


 あんまり分かっていないようだが、わがままも言わず、家事を一手に引き受け、約束が守れなくても怒らない小学生の妹なんて日本中探しても数えるほどしかいないんじゃないかと思う。


 むしろいるのかさえ怪しい。


 ただ、気にしなくてもいいと言いつつも、俺が埋め合わせをすると言った後で嬉しそうな表情になったのを俺は見逃さなかった。


 できるだけ期待に添えるように頑張りたいところだ。


「俺がそうしたいだけだから蛍は気にすんな」

「分かった。楽しみにしてるね」

「あぁ。任せておけ」


 合宿が終わった後で二人で出かける約束をした俺達はテレビを見ながらのんびりと過ごした。


 月日は早いものであっという間にゴールデンウィーク前日になった。


「いよいよ、今日の夜から合宿だな」

「うん」

「準備は出来てるか?」

「大丈夫。必要なものはリスト作って全部確認しながら入れたから」

「流石わが妹だ。しっかりしているな」

「お兄ちゃんこそ準備はできてるの?」

「ああ。問題ないぞ。蛍がリストを作ってくれたからな」

「ふふん、まぁね」


 俺たちはお互いに準備が出来ているのか確認しあうと荷物を持って家の外に出る。玄関に鍵を掛け、家の前までやってきた。


 すると、遠くから車のライトが近づいてきた。その車は俺たちの前で止まり、窓を開けた。


「待たせたわね、さぁさぁ乗って乗って」


 顔を出したのはすみれさんだ。それは彼女が運転した車だった。


「すみれさん、よろしくお願いします」

「お願いします」

「ふふふっ。任せて」


 これから行く場所にはすみれさんが連れて行ってくれることになっている。


 俺たち兄妹が頭を下げて後部座席に乗りこんだ。


「あ、來羽。來羽もよろしくな」

「お姉ちゃんよろしく」

「うん、こっちもよろしく」


 中には來羽が座っていたので、挨拶を交わす。


「それじゃあ、出発するわよ」

「「「はい(はーい)」」」


 俺と蛍が席についてシートベルトを締めると、すみれさんの合図で俺たちは合宿に向けて出発した。

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