第046話 なんでもするって言ったよね?

「はぁ……そういうことだったのね……」

「本当にすみませんでした」


 俺は今高そうなL字型のソファーにすみれさんと斜めに向かい合う形で座っている。事情を知ったすみれさんは呆れたようにため息を吐き、申し訳なさから深々と頭を下げた。


 あの後、來羽が来てくれたことでどうにか騒動は収まった。


「何やってるの?」

「それはこっちのセリフでしょう!? なんで泰山君がここにいるのよ!!」

「お腹痛そうだったからトイレ貸した」

「すみません」


 そんなやり取りがあり、すみれさんが急いで着替えた後できちんと経緯を説明して今に至るというわけだ。


 それにまさか來羽とすみれさんが一緒に住んでいるとは思わなかった。


 玄関に女物の靴があったかもしれないが、腹が痛くてそれどころじゃなかったし、多分あったとしても來羽のやつだと思って気付かなかっただろうな。


 話を聞くところによると、詳しい事情までは分からないが、すみれさんが來羽を預かって育てているそうだ。


 來羽がすみれさんに対して気安い受け答えをするなぁとは思っていたけど、ようやくその謎が解けたって感じがする。


「もういいわ。理由も分かったし、無防備だった私も悪いしね」


 少し納得して居なさそうな顔をしながらも、大人な対応で許してくれるすみれさん。


「本当に申し訳ありませんでした!! 償いとして俺にできることならなんでもします!!」

「へぇ~、そんなこと言ってもいいの?」


 俺は申し訳なくなってどうにか借りを返したいと思い、思わずそんなことを口走ってしまったら、すみれさんがニヤリと口端を釣り上げて、悪い笑みを浮かべた。


「え、いやいや!? あくまで俺ができることの範囲の内ですよ!?」

「まぁいいけどね」


 すみれさんの態度の恐怖を頂いた俺は、慌てて念押ししておく。すみれさんも本気ではなかったのか、それ以上追及はされなかった。


「はい、 ジュース」

「ありがと」

「あ、ありがとう」


 ちょうど話の区切りが良いところで來羽が飲み物を持ってきてくれた。今は四月後半で夜ということもあり、まだまだ肌寒いこともあるからか、來羽が持ってきてくれたのは温かい紅茶だった。


 砂糖とミルク、レモンが添えられていて、俺はミルクティにして口を付ける。紅茶なんていつ以来だったか分からないくらい昔に飲んだ記憶しかないが、來羽が出してくれた紅茶は香り高く、風味が損なわれていなくてとても美味しかった。


「あ、泰山君にはちょっとお願いしたいことがあるんだけど。このお願い聞いてくれたらチャラにしてあげてもいいんだけどなぁ?」

「な、なんですか?」


 すみれさんが紅茶を飲んでいる途中で今思い出したかのようにお願いをしようとする。俺はそのびくびくしながら尋ねた。


「もうすぐゴールデンウィークじゃない?」

「そうですね」


 すみれさんの問いかけに俺はコクリと頷く。


「そこで、戦闘力を上げるために合宿をしようと思うんだけど、それに参加してくれない? これは仕事じゃないから給料は出ないけどお願いできないかしら」

「そうですね。その間のパトロール任務が問題なければ参加させてください」


 すみれさんのお願いは思ってもみないことだったが、今よりも強くなるヒントがあるかもしれないし、下半身をどうにかできるメンタルを手に入れることもできるかもしれない。


 それならできれば参加したが、俺にはパトロール業務がある。


「その仕事は他の人員に任せるから大丈夫よ」

「分かりました。それなら俺からは何も言うことはありません」


 しかし、俺の唯一懸念していた件も問題なく解決されてしまったので、俺は快くその合宿に参加させてもらうことにした。


「それじゃあ、詳しい内容はまた連絡するからよろしくね」

「分かりました」


 それからたわいのない話をした後、俺は一人で家で待つ妹の許に帰還を果たした。

 

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