第045話 遭遇

 俺はお尻を締めて内股になりながら、來羽の後に続いてマンションの中に足を踏み入れる。


 広々としたエントランスがあったり、コンシェルジュがいたり、一瞬退魔局のようなオシャレなオフィスビルか何かかと見間違えそうになるが、中に入っている企業などの表示はないし、入り口で認証などセキュリティがあるため完全に別物だ。


 少し落ち着いたので、なんとか來羽の家くらいまでは持つだろう。


「こっち」


 そんな風に考えながら、先導する來羽の後を気合で付いていき、俺はエレベーターに乗った。


―ぎゅるるるるるるっ


「ぐぅううううううっ」


 しかし、俺の予想は虚しくも崩れ去り、逃げ場のない個室の中で猛烈な痛みが俺の腹を襲う。第二波がやってきたのだ。


 俺は思わず腹を押さえて蹲る。


 くっ。これなら一階のエントランスで探した方が良かったか……。


 俺は來羽の家でトイレを借りることしか頭になくてエントランスにトイレがあるかもしれないということをすっかり忘れていた。


「大丈夫?」

「や、やばいかも……」


 來羽がしゃがみ込んで心配そうな雰囲気を醸し出しながら俺の顔を覗き込んでくるが、かなりヤバい状態だった。


 それにしても俺と同じくらいは食べているはずなのに全く腹を壊す様子もない。必死に腹痛と便意を我慢しながら來羽の胃腸の強さが驚愕するほかない。


「もう少しだから頑張って」

「あ、ああ……」


 來羽が優しく俺の背中をさすってくれる。


 腹とは関係ないので意味はなさそうだが、その気持ちに感謝した。


―チーンッ


 ようやくエレベーターが止まり、扉が開く。


「こっち」

「りょ……了解」


 なんとか第二波を乗り切った俺はエレベーターを降りて再びなんとか來羽の後を付いていく。


―ガチャリッ


 一番端の扉の前にたどり着くと、來羽がカードらしきものを翳して鍵が開く音が聞こえた。


「どうぞ、上がって」

「お、お邪魔します……」


 來羽がドアを開けて中に入り、俺を招き入れる。


 なんだかテレビでよく見る有名芸能人の自宅マンションって感じの凄くスタイリッシュかつ高級感のある玄関と廊下が広がっていた。


「ぐぅうううううううっ」


 そして家の中に入ったところで第三波が俺の腹に襲い掛かってくる。


 我慢の限界ですぐそこまで来ている気がするが、必死にケツを締めてなんとか來羽の後に続く。


「トイレはここ」

「わるい……助かった」


 來羽が案内してくれたドアを開き、トイレの中もオシャレだったが、それを楽しむ余裕もなく便座に座った。


 その後の事象は自主規制だ。


 とりあえず間に合ったとだけ言っておこう。


「はぁ……なんとか間に合って良かった……」


 こういう時、よくあるのはトイレに鍵がかかっていてとか、鍵はかかっていなかったけど中に誰かが入っていたとかで漏らすことになるパターンがあるけど、そうならなくて本当に良かった。


 人間の尊厳を保つことが出来たことに心から安堵した。


 俺は手を入念に洗った後、トイレを借りた礼を告げてから帰ろうと思い、勝手に散策をするのも悪いと思ったが、リビングがありそうな方に向かって歩く。


―ガチャッ


 しかし、その途中にある扉が開き、中から人が出てきた。


「來羽~、帰ってきてるのぉ?」


 それはバスタオルを巻いただけの人物で、よく見ると化粧はしていないが、見たことのある人物だった。


「す、すみれさん!?」

「え?……」


 それは巨乳巫女お姉さんこと、すみれさんだ。


 俺が思わず彼女の名前を呼ぶと、まるでブリキ人形のようにギギギと首をこちらに動かして呆然となった。


「「……」」


 一瞬沈黙が訪れる。


「きゃあああああああああああっ!! な、なんで泰山君がウチにいるのよ!?」


 しかし、次の瞬間すみれさんは恥ずかしそうに悲鳴を上げ、扉を使って自分の体を隠した後で、ドアから顔だけ出して恥ずかしそうに俺に詰問した。

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