第044話 トイレの神様

「うっぷっ……もう無理……ごちそうさま……」


 俺はもう限界だったがなんとかデザートまで食べ切ることができた。直後に俺は家の壁に背を預けてぐったりとする。


 俺の腹は妊婦のように膨らんでいた。完全に許容量を超えている。


 気を抜いたら逆流しそうだ……でも、せっかく二人が作ってくれた料理。絶対に吐き出すわけにはいかない。


「ごちそうさま」


 來羽も表情を変えることなく食後の挨拶を済ませる。


 俺みたいに腹が出ているようには見えない。まぁトップスが腹回りがゆったりしているタイプだから隠れているだけかもしれないが。


 それにしても俺とほとんど変わらない量を食べていたにも関わらず、全く動じていないなんて來羽の胃はどうなっているんだろうか。


 來羽の限界を少し知りたいと思ってしまった。


 というか來羽の見た目なら大食い系美少女配信者として食べていける気もする。


 いや……絶望的にリアクションとセリフがないから無理か……?

 でもルックスだけでも男達は群がってくる気がする。


 むしろ無口なキャラの配信者って中々いないだろうし、もしかしたら人気配信者になれるかもしれないな。


 ちょっと後で提案してみるか。


「お粗末様でした。さっすがお兄ちゃん、全部食べ切ってくれて私嬉しいな」

「お、おう……このくらいお兄ちゃんにかかればなんてことはないからな……ドンとこいだ」


 ケーキの皿まで綺麗になったちゃぶ台を見て蛍がキャッキャと笑う。妹が嬉しそうな顔をしているので思わず強がりを言ってしまう俺。


「そっか!! それじゃあ今度からいっぱい作るからね!!」

「お、おう!! 任せておけ」


 しかし、それが間違いだった。妹はいつも全然量が足りてなかったと解釈して量を増やすつもりらしい。


 ただ、妹のやる気に水を差せず、頬を引きつらせつつも蛍の言葉に首を縦に振る事しかできなかった。




「そろそろ帰るね」

「お、おう。もうそんな時間か。悪いな。お構いも出来ず」

「蛍と話してたから大丈夫だよ」

「そうか」


 その後俺がぐったりしている間に洗い物などを済ませ、妹と話していたらしい來羽が時間を見て荷物をまとめて立ち上がった。


 俺は腹いっぱいすぎて苦しくて何も話せなくて頭を下げるが、彼女は気にしてないと首を振る。


「お兄ちゃん。お外暗いからお姉ちゃんを送っていってね」

「そうだな」


 妹に言われて俺も立ち上がる。


「別にいいのに」

「そう言うなって。人がいない少ない土地だとは言え、夜に女の子を一人で帰す訳に行かない。それに腹ごなしもしたいしな」


 來羽は遠慮しようとする。


 確かに彼女なら普通の人間には負けたりしないだろう。しかしリッチみたいな上級怨霊にやられそうになっていた過去もある。


 夜は奴らのテリトリー。備えるに越したことはない。


「そう。それじゃあお言葉に甘えるね」

「任せておけ」


 來羽もそれ以上固辞するようなことはしなかったので、俺は力こぶを作って引き受けた。


 家を出た俺は彼女の後ろについて暗闇の中を疾走する。身体強化をしているので風景が新幹線に乗っているかのように流れていく。


 田園地帯を一瞬で駆け抜け、街中に入ると、建物の屋根の上を飛び跳ねて移動する。勿論建物を壊さないように配慮しているぞ。


「ここ」

「マジか……」


 それから十分ほど走ると、來羽の家に着いた。


 その家を見て呆然となる。


 なぜならその家とは近隣で一番高くて高級そうなタワーマンションだったからだ。


「それじゃあまた」

「ああ――」


 呆然となる俺に別れを告げる來羽に俺も手を挙げて返事を返そうとした。


―ぐるるるきゅーっ


「ぐぉおおおおおおおっ」


 しかし、突如襲い来る腹痛。


 どうやら俺の祈りは神様に通じていなかったようだ。


 俺はその場に蹲る。


「大丈夫?」

「なんのこれしき……」


 しゃがんで俺の顔を覗き込んでくる來羽に強がる俺。


―ぐるるるきゅーっ


 ぐわぁあああああっ。


 しかし、どうやら家までは持ちそうにない。


「ウチくる?」

「悪いな……頼んでもいいか?」

「いいよ」


 そんな俺に來羽が魅力的な提案をしてくる。


 一瞬女の子の家でトイレを借りるなんて恥ずかしい事できるかと思ったが、この年で漏らしちゃう方が問題だと思い、恥を忍んでトイレを借りることにした。

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