第042話 約束

「お兄ちゃん、お待たせ」

「ごめん」

「い、いやいや、むしろ眼福だったというかなんというか。むしろ俺の方がごめん」


 帰ってきた來羽は昨日の服装に近い、動きやすい短パンとノースリーブのトップスを着ていた。來羽が頭を下げるが、別に悪いことをしたわけじゃないし、バッチリ見てしまった俺も悪いので頭を下げた。


 ふぅ……さっきのは流石に刺激が強すぎるから助かったな。


「それで? 今日はどういう約束をしていたんだ?」


 気を取り直したところでなぜ來羽がウチに来ることになったのかを尋ねる。


「昨日話をしていて洋風の料理を教えてもらおうと思って」

「私は和風の料理を習いに」

「なるほどな」


 話を聞く限りどうやらお互いの技術交換みたいな感じの約束らしい。予想していたのは大体あっていたみたいだ。


「うん、だからお兄ちゃんもお風呂に入ってきてね。ゆっくりでいいから。着替えは持っていくから」

「了解」


 俺も來羽と一緒に仕事をしていたため、それなりに汚れている。だから食事の前に俺も身ぎれいにする必要があった。


 妹に促されて風呂に向かう。


 服を脱いで風呂場に入ったら、お風呂特有の蒸気と湿気、それにウチのシャンプーとリンス、そして石鹸などの匂いに混じって、最近よく嗅いでいる匂いがした。


「これって……來羽の匂いか?」


 それは來羽自身が持つ柑橘系の爽やかでフレッシュな香りだった。


 そういえばさっきまでここで來羽がシャワーを浴びていたんだよな……。


―ゴクリッ


 そう思うと、來羽のシャワーシーンを想像してしまい、思わず喉がなった。


 烏の行水ともいえるほどの早さで俺たちの会話に混ざってきたので、さっと流した程度だったんだろうが、ハッキリと分かるほどに男を惹きつける女性特有のフェロモンが残されていた。


 それだけで俺の体の血が自動的に一点に集約していき、天へと向かって屹立するエベレストへと変貌を遂げてしまった。


「これは収まりそうにないな」


 本当にいつもいつも俺の前であられもない姿ばかりさらしてくれるので、毎日処理しても追いつかないくらいだ。


 俺は風呂だということを良いことに今日新たに脳内の來羽フォルダに追加された彼女の姿とここでの彼女の姿を想像しながら、右手にお世話になって溜まってい物を吐き出し、処理を完了させた。


 その後で体や頭を洗うことで特有の匂いがとどまらないように細工をしてサッパリした後で、湧かされていた湯船に浸かり、体があったまったところで風呂から上がった。


「そこはこういう風に切る」

「ふむふむ。なるほど。やってみるね」


 心は兎も角身は綺麗になった俺が台所に戻ると、具材を調理しながら來羽が蛍に指導をしていた。


 その後ろ姿はまるでしまいみたいだ。


 それにエプロンを付けている姿もなんだかそそるものがある。今は賢者タイムゆえに事なきを得ることが出来たが、普段だったら、その可愛らしさにまた硬くなってしまうところだった。


 ただ、二人で並んで料理をする姿はまるで姉妹のように仲睦じく尊いものだった。百合系の作品に関してはあまり良く分からないが、女の子同士が仲良くしているくらいならほっこりとするのは間違いない。


「お風呂あがったぞ」

「うん。もうすぐだからお兄ちゃんはのんびりとテレビでも見ながら待っててね」

「分かった」


 二人に声を掛けたら待っているように言われたので、いつも言われ慣れている俺は素直に蛍の言葉に従って今のちゃぶ台の俺の専用座布団の上に座って料理ができるのを待った。


「できたよ、お兄ちゃん」


 それから二十分ほど経った後、蛍と來羽は今日作った料理をもって今にやってきた。


「おお美味そう!! 今日は沢山働いたからお腹ぺこぺこだ」

「全部並べるからもう少し待っててね」

「了解」


 そこには普段作らないような洋風の料理が置かれ、それを見ることで腹が勝手になってしまった。


 妹はクスリと笑って來羽と一緒に料理を並べていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る