第039話 祭りの後

「それじゃあ、また」

「また仕事でね~」


 完全に酔っ払いになり、足元がおぼつかないすみれさんは、酔っ払いは來羽に支えられて俺たちの前から去っていった。


 ふぅ……なんとか無事に終わった、と言っていいんじゃないだろうか。なんだかんだで來羽と蛍も仲良くなったし。仕事を変えたのはバレたけど、妹にもそこまで怒られなかったし。


「俺たちも帰ろうか」

「うん」


 俺は蛍に手を差し出し、妹は俺の手を掴んだ。


「今日は楽しかったな」

「うん。私が作らない料理や知らないことが沢山知れてよかった。桜も綺麗だったし」


 手をつないでぶらぶらと振りながらもうすぐ日が沈みそうな道を二人でのんびりと歩く。


 蛍も花見の最初はどうなることやらと思ったが、機嫌が良さそうに話しているから、本当に楽しかったのだろう。


「そうだな。あの公園はあんなに桜が綺麗なのに人ひとりいないとんでもない穴場だったな」

「うん、来年もお花見はあの公園でいいかも。他にもっといいところがあるなら行ってみてもいいけど」

「あれ?」


 言葉にして蛍からの返事を聞いた後、俺は違和感を感じた。


 そういえば、なんであの公園には誰一人として他の人が居なかったんだ?


 俺はそのことに今の今まで全く疑問を抱かなかったが、今思えばあれはすみれさんか來羽が人除けの結界を張っていたのではないだろうか。


 全くそんな気遣いしなくてもよかったのに……。


「ははっ」


 俺は二人の心遣いに嬉しくなって思わず笑いが漏れた。


「どうかしたの?」


 そんな俺の様子がおかしかったのか不思議そうに小首を傾げる。


「いや、なんでもない。そうだな。ちょっと探してみて他に良いところがなかったら来年もあそこで花見をしような」

「うん!!」


 俺は來羽の問いに首を振り、来年の話で誤魔化す。


「來羽とはどんな話をしたんだ?」

「うんとねぇ……」


 それから仲良くなった來羽とした話を相槌を打ちながら聞いてやる。


 蛍は学校に料理の話ができる相手がいなかったらしく、來羽と話せたのがよっぽど嬉しかったのか、ニコニコとした笑みを浮かべながら声を弾ませて語った。


「でもなんだか……あんなに楽しかったのに、今は静かで寂しいね」


 ひとしきり話し終えた蛍がしんみりと呟く。


 あの二人が騒がしかったから尚更そう感じるんだろうな。來羽は別に沢山話すわけじゃないが、行動が突拍子もなさ過ぎて目が離せないというか、別の意味でハラハラドキドキさせられるという意味で騒がしいと言える。


 だからこそ、ぽっかりと胸に穴が開いたような気持ちになる。


「そうだな。まるでお祭りが終わった後みたいだ」


 この気持ちはそれによく似ていた。


「あぁ~、お兄ちゃんの言う通り、その時の気持ちにそっくりかも。ずっと続いてほしいなっていう」


 妹も俺の答えにウンウンと頷いて同意する。


「ホントにな。楽しいことは長く続いてほしいけど、楽しいこと程一瞬だ」

「今日は本当にすぐ終わっちゃった。また楽しいことしたいな」

「おっ。したいことが出てきたみたいだな?」

「うん、もっと沢山お出かけしたいかも!!」


 今日のお出かけがよっぽど楽しかったらしく、妹にも出かけたいという気持ちがでてきたらしい。


 その答えが聞けただけでも今日お花見に誘って良かったと思えた。


「そっか。それじゃあこれから色んな所に行こうな」

「うん!!」


 俺が蛍の方を見下ろして話すと、妹は俺の方を見上げてまるで太陽のように眩しい笑みを浮かべた。


「あ。でも……」

「どうした?」


 不意に蛍が言いよどむ。


 その姿に何かあったのかと思い、俺は不振に思って首を傾けた。


「あの二人のことはきっちり全部吐いてもらうからね、お兄ちゃん?」

「あ、はい」


 普通の笑みから暗い笑みに変化し、光をない瞳で俺を見つめてきたので、首を縦に振る以外になかった。

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