第033話 始まる前から刺激だらけ

「さぁさぁ、早くお弁当を食べましょ」


 挨拶をし終えたら、すみれさんに手を引かれ、彼女たちが元々座っていた敷物の上に案内された。そこにはすでに沢山の料理の数々が並べられている。和風というより、どちらかと言えば洋風の料理が多く見える。


「私が作った」

「へぇ~、やっぱり凄いな」


 俺が料理に目を奪ばわれて立ち止まっていると、來羽が俺の疑問に答えるように無表情で言った。


 そういえば弁当も美味そうだったが、洋風の料理が多かったような気がする。


 俺は彼女の料理能力の強さに感心した。


「むぅ~~!! 私もいっぱい作ってきたもん!!」

「お、おい!?」


 妹がふくれっ面をして突然俺のリュックを引っ張ったのでバランスを崩して倒れそうになるが、どうにかこうにか膝をついてことなきを得る。


「おわっ」


 しかし、身を低くした俺からさらに蛍がリュックをひったくったせいで、姿勢を保とうとした反動で前に倒れそうになり、地面に手を突こうと手を前に付きだした。


―ドンッ


 その手の先には何か柔らかい感触の物体を押してしまった。


「ん」


―ムニュッ


 誰かの短い声が聞こえたと思えば、俺の顔は何か柔らかい感触に挟まれることになった。完全に顔を覆われて息が苦しい。


 しかし、完全に息ができないわけではなく、最近よく嗅いだことのある匂いと少しつーんと甘酸っぱい匂いが合わさったものが俺の嗅覚に襲い掛かった。


 それは俺の男の本能を呼び起こすには十分で、かつその柔らかさと匂いの持ち主の正体が分かり、さらに拍車がかかる。


「んんーーっ」

「あんっ……」


 俺はすぐに離れようと動こうとすれば、艶めかしい声が俺の耳から入り込み、さらに欲望を刺激してきた。


「ぷはぁ」


 どうにかこうにか地面に手を付くことができた俺は柔らかな感触の中から顔を起こして視界を開ける。


 俺の前には予想通りの光景が広がっていた。それは來羽の履いていたショートパンツだった。つまり俺は再び來羽の股間に頭を突っ込んでしまっていたのだ。


「あらあら、大胆ねぇ」

「いやいや、どう考えても不可抗力ですから!! 來羽もすまん」


 俺の顔のすぐ隣にニヤニヤとした表情で見つめるすみれさんがいて、俺は思わず飛び退いてアワアワと言い訳をした後で、のそのそと上体を起こそうとしている來羽に謝罪しながら手を差し出した。


「うん。大丈夫」


 來羽は表情はあまり変わらないままだが、ほんのり顔を赤らめて俺の手を取って立ち上がった。


「これでどう!!」


 ゴソゴソと中を漁って、風呂敷に包まれた大きな重箱を取り出し、元々の料理の隣広げて並べていたので妹に気付かれることはなかった。


「どうしたの?」


 しかし、俺たちの微妙な雰囲気になっていたのを不思議そうに首を傾げる。


「い、いや、なんでもないぞ……。それよりも蛍の料理も美味そうだな」


 俺は苦笑いを浮かべて話を誤魔化した。


「むっ。中々やる」


 一方で、その料理を見た途端、來羽の琴線に触れたようで、少しだけピクリと表情を変えた。ウチの妹の料理は俺の大好きな唐揚げの他、日本で定番の料理をメインに、和風寄りのメニューがぎっしりと詰まっている。


 二人の視線の間に見えないはずの火花が見える気がした。


 蛍の奴、もしかして俺が來羽の料理を褒めたから、元々警戒心を頂いている來羽に対抗したかったのかもしれない。


 そのおかげで俺は色々と良い思いができたので感謝しておこう。


「ほらほら、二人とも折角のお花と料理があるんだから、にらみ合っていないで楽しみましょう。私は蛍ちゃんのことが知りたいわぁ」

「むむ~」

「むっ」


 しかし、その雰囲気を壊すように二人を抱き寄せるすみれさん。色々大きい彼女にからめとられた蛍と來羽は、彼女のバインバインな膨らみを顔に押し付けられて苦しそうにしている。


 うっ……なんて柔らかそうなんだ……。


 二人によってぐにゃりと形を変えた豊満な胸部装甲に思わず目を奪われてしまう。


 くっ……このままではまた俺の体の一部に血が集まってしまう。


「すみれさん、二人が苦しそうです。お花見をしましょう」

「あら、ホントね」

「「ぷはぁ」」


 気を散らすために振り絞った俺の声ですみれさんが蛍と來羽を解放し、ようやく花見が始まった。

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