第032話 身内バレ

「お兄ちゃん、なんでこの人がここにいるの!?」


 すみれさんの反応で、蛍の怒りの矛先が俺の方を向く。


「いや、俺も何がなんだか分からないんだよ……」


 しかし、俺としては意味が分からないので困惑しかない。


 すみれさん、絶対分かっててやってるだろこれ……あざとすぎる。いや、可愛いし、思わずドキッとしてしまうけどさ。


 ちっ。それにしてもマズい時に来てくれた。なぜなら妹には仕事が変わったことを話していないからだ。


 一体どうやって誤魔化せばいいんだ!? 

 全く思いつかない!!


「あなたはお兄ちゃんのなんなんですか?」

「あら、話は聞いてないのかしら。私は泰山君の上司よ」

「上司?」


 俺が混乱している間に妹がすみれさんに威嚇しながら問いかけ、すみれさんは不思議そうにしながら返事を返した。蛍も意味が分からなくて首を傾げる。


「ええ、今彼は私の所で働いているの」

「え!? そうなのお兄ちゃん!?」


 すみれさんの答えに聞いてないという表情で俺の方を見てくる蛍。


「あ、ああ……まぁな」

工場こうばはどうしたの!?」


 俺は上手く誤魔化すことも出来ずに肯定するしかなかった。そうすれば以前の職場の事を尋ねられるのは必定。


「事情を話したら快く送り出してくれたよ」

「もう!! おじちゃんたちにはお世話になったんだからちゃんとお詫びしてよね!!」


 観念して白状すると、妹はプリプリと怒りながら俺に説教をする。


 元々する予定だったけど、妹にこんなことを言われてしまったら兄として形無しだよなぁ……。


「分かってるってそこは必ずするよ」

「ならいいんだけど……それでどんなお仕事をしてるの?」


 妹に真剣な表情で返事をしたら、蛍は一応納得してくれて矛を下ろした。その後で核心を突いた質問をしてくる。


「それは……」

「ふふーん。こう見えて私たちは国に属しているのよ。だから安心して変なお仕事じゃないから」


 俺が言いよどんだが、それに被せるようにすみれさんが自慢げな様子で腕を組んで答えることで事なきを得た。


 腕を組むことで彼女の豊満な二つのメロンが押し上げられ、彼女のトレンドマークである巫女服が大きく歪んで思わず目を奪われてしまう。


 で、でかい……!!


 漢として母性の象徴に目が釘付けになってしまうのは仕方がないだろう。


「そんな偉い人がなんでお兄ちゃんを?」


 確かに国に仕えるというのは本来であれば試験で資格を取って初めてつけるような職業だ。


 その仕事を俺がしている理由は気になるのは当たり前だろう。


「それは泰山君が物凄い才能を持っていることが分かったからよ。彼の才能があれば沢山の人が救われるの」

「本当に変なこと……じゃないんですよね?」


 すみれさんが核心は答えずに上手い事誤魔化しながら答えたら、蛍は疑るように再度確認を取る。


 以前の俺は勉強ができることとバイトで社会経験を積んでいることくらいしか取柄がなかったからな。なかなか受け入れられなくてもしょうがないよな。


「それは神様に誓って違うと言えるわ」

「……分かりました。それならいいです」


 真剣な表情で返答したすみれさんの顔をジッと見た後で蛍が引き下がった。


 ふぅ……これでひとまず乗り切ったか。


 俺は二人の様子を見ながらこっそりため息を吐いて安心していた。


「そうね。折角だから一緒にお花見しましょ。あなたのことも知りたいわ」

「わかりました。私は本野蛍です。お兄ちゃんがいつもお世話になってます。よろしくお願いします」

「あらあらご丁寧に。偉いわね。私は環境調査局局長の神崎すみれと申します。こちらこそあなたのお兄ちゃんの泰山君にはいつもお世話になってるわ。よろしくね」

「私は忍野來羽。泰山の同僚でクラスメイト。よろしく」


 すみれさんの音頭でお互い自己紹介をしあった後、物凄く気まずいお花見が始まった。

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