第030話 妹への提案

「蛍、昨日言ってた外出の件だけど、今度花見に行こうか」


 次の日の朝、朝食を食べていた時に妹に提案してみる。


「え? お花見?」

「ああ。嫌か?」


 意外そうな顔をして俺に聞き返す蛍に、俺も再び問い返した。


 表情を見る限り、嫌そうな反応はしていなかったが、どうだろうか。


「ううん、全然嫌じゃないよ。楽しみ!!」

「そうか? 無理しなくてもいいんだぞ?」


 彼女はにっこりと嬉しそうに顔を綻ばせた。


 一応念押しで確認する。


 両親との思い出がよみがえってきて寂しい思いをさせるのは嫌だからな。


「無理してないよ。お兄ちゃんと一緒ならどこでも楽しいから」

「ははははっ。それならいいんだけどな。色々思い出すこともあるだろ?」


 不安を払拭するように笑みを深める蛍に、心配になっていた部分を尋ねてみた。


「もう何年も経ってるし、本当に大丈夫だよ」

「そうか、分かった。それじゃあ、今週末はお花見に行こう」


 何度も確認する俺の態度のせいで蛍が心外そうな表情になったので、これ以上何かを言うのやめて、お花見を楽しむことを考えることにした。


「わぁ~!! お弁当準備しなきゃ!!」

「うーん、蛍に負担掛けるのはなぁ……買ってすまさないか?」

「だーめ!! 折角お花見するんだから私が作るの!!」

「分かった分かった。蛍に任せるよ」


 昨日考えた通り、やっぱり自分で弁当を作ろうとしたので、スーパーの総菜を提案したが、プンプンと不機嫌そうに却下されてしまった。


 元々両親がいなくなって必要に迫られてやるようになった料理だけど、いつの間にか隙になっているみたいだ。


 それでも俺は作ってもらってばかりなので申し訳ない感じがしてしまうな。


 そうだ、今度料理が楽になるっていう調理器具をプレゼントをするのもいいかもしれない。


 俺はそんなサプライズを考え付いた。


「やっぱりお弁当といったらもやしの焼きそば風だよね。それにモヤシのナムルとか中華サラダなんかもいいかも。ちょっと奮発してモヤシと肉の煮ものとかもありかも」


 しかし、俺が蛍にできることを考えていたら、妹がモヤシ料理ばかりを思い浮かべながらブツブツ呟いているのが視界に入る。


 妹は昨日言ったことをすっかり忘れているらしい。

 そんなところも可愛いんだけどな。


「ほらほら蛍。食費のことなら気にするな。これを使えばいい」

「えぇ~!? 諭吉さんがこんなに!?」


 俺は財布の中から一万円札を数枚出して蛍の前に差し出す。


 妹は毎月2万円でやりくりしてくれている。それなのに、目の前にそれ以上の金額を出されたら目も丸くなって当然だ。


 でも、これからはそれくらい使っても全く問題ないだけの金額が入ってくる。


「ふふふっ。だからモヤシばかりで考えなくてもいいからな」

「分かった!! お兄ちゃんが大好きな唐揚げも作ってあげるね!!」


 驚く蛍の反応を見ながら満足げに頷くと、妹は一万円札を扇のように広げて手にもってニカッと笑った。


「おお!! 本当か!? それは楽しみだな!!」


 俺は死ぬほど鶏のから揚げが大好きなのでテンションが上がる。


 これは週末の花見がとても楽しみになった。

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