第028話 ハグの刑
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
家に帰ってきて夕食を食べた俺と蛍。
一緒に食器を片付けて居間でのんびりする。
「蛍、何か欲しいものはないか?」
「何、突然。前も言ったでしょ。私はお兄ちゃんがいれば他に何にもいらないよ?」
今が頃合いかと思い話を切り出す。
妹は不思議そうに首を傾げた。
くっ。出来過ぎた妹で嬉しい反面、無理をしてるんじゃないかと心配になる。
「そんなことないだろ? 女の子なら欲しがりそうなものを欲しがらないし、いつも質素なご飯ばかり食べさせてしまっている。それにどこかに連れて行ったりもできない。蛍には我慢ばかりさせて悪いと思っているんだ」
「全然我慢なんてしてないよ。私お兄ちゃんと暮らせて楽しいもん」
本当に何かないのかと尋ねてみても一切なんの不満も言わない。
どこまでできた妹なんだ……。
「そうは言っても学校で友達と話すのに困ったりするだろう?」
そう。妹自身は別に欲しいと思っていなくても、テレビやネットで人気になっているものに関してある程度知っていないと話題に付いていけなかったりするはずだ。
「うーん。テレビはあるし、そんなに困ることはないかなぁ」
「なんとういうコミュ力……」
しかし、妹は顎に人差し指を当てて空中に視線を彷徨わせるが、思い当たる節はないようだ。
俺は妹のコミュニケーション能力に愕然とした。
「お兄ちゃんみたいにボッチじゃないからね!!」
「ぐぬぬ……。言うじゃねぇか」
俺の様子を自慢げに胸を張る妹。俺はぐうの音も出ない。
「そんなことよりもどうしたの? この前からちょっと変だよお兄ちゃん」
「いやなに、お兄ちゃん仕事で認められてな。大出世して給料が沢山増えたんだ。だから、苦労を掛けている蛍に何かしてやりたくてな」
やはり俺の様子が変なことに気付いてようで、蛍は少し心配そうな顔をする。
その曇った表情を少しでも晴らすように極力笑みを作って返事をした。
「もう……別にそんなこと考えなくてもいいのに。あっでも……」
「なんだ? 何かあったのか?」
お兄ちゃんは仕方ないんだから、とでも言いたげな妹だが、何か思いついたことがあるみたいなので話の続きを促す。
「うん。食事はもっと色んなものが作れたらいいなと思う」
「ん? そんなことでいいのか?」
しかし、別に大したことじゃなかったので俺は拍子抜けしてしまった。
「うん。だってお兄ちゃんもやしばかり食べてるもん。今育ち盛りだからもっと栄養をある物を食べてほしいの」
「それじゃあ結局俺のためじゃないか」
そしてその先の話を聞いて今後は逆に仕方がないなと返事をする。
やりたいことがあるのかと思ったら、結局自分じゃなくて
「ううん、違うよ。お兄ちゃんが元気で楽しく過ごしていることが私の幸せなの。だから、私のためだよ――きゃっ」
「そんな可愛いことを言う妹はハグの刑だ!! このこの!!」
それでもなお自分のためだと言い張る妹が可愛すぎて、気持ちも溢れて妹に近づいてギュッと抱きしめてしまった。
「もう……苦しいってばお兄ちゃん!!」
「分かった。食費に関しては好きなだけ出してやる。他にも必要な器具とかあったら買ってやるから言うんだぞ? それと、兄ちゃんが元気で楽しく過ごすためには蛍が元気で笑っていないとダメなんだ。だから、これからはもっといろんなところに出かけたり、いろんなものを買ってやるからな」
「全くもう、お兄ちゃんはしょうがないんだから」
苦笑いを浮かべる妹をこれでもかと抱きしめた後、体を離してにっこり笑って宣言したら、また妹に呆れられてしまった。
いや、これでいい。
妹から言わないなら俺が行きたい場所。上げたいものを買ってやったらいいんだ。
これからは積極的にどこかに連れて行こうと思う。
「とりあえず、次の休みは出かけるぞ」
さしあたって軽い外出から始めることにした。
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