第026話 女の匂いがする
「それじゃあ、また明日」
「ああ、またな」
報告書の書き方を教えてもらった後、時間的にいい頃合いになったので帰ってきた。家の前で別れを挨拶を告げる。
「これありがと」
彼女は手にあるコンビニのビニール袋を軽く掲げるようにして俺に礼をする。それはなけなしのお金を使って彼女に奢ったコンビニのプリンだ。
流石に自分の都合に付き合わせておいて何もなしじゃ、人としてどうかと思ったので、大したものじゃないが礼として買わせてもらった。
彼女にはいつも色んな意味で世話になっているしな。
「いや、付き合わせてしまったからな。その礼だから気にしないでくれ」
礼に対して感謝されてしまった俺は肩を竦めて首を振る。
「わかった。それじゃ」
「ああ」
彼女は素直に頷いて人除けの結界を張って身体強化で走り去っていった。
「ただいま~」
「お兄ちゃん、おかえり~」
俺は引き戸を開けて家の中に足を踏み入れ、靴を脱いでいると、奥からパタパタと駆けつけてくる妹の足音と朗らかな声が聞こえる。
まだ数日なのでこうやって妹が出迎えてくれる生活は懐かしくて素晴らしい。
「今日もお仕事お疲れ様」
「ああ。ありがとう」
私服に白いエプロン姿でやってきて俺を労ってくれる妹が可愛すぎる件。
「良い匂いだな? 今日のメニューは?」
「ふっふーん。今日は肉ともやしの炒め物とご飯とお味噌汁だよ」
「な、なんだって!! 肉だと!? そんなにお金を使っても大丈夫なのか!?」
「大丈夫!! ちゃんと計算してるから!!」
俺が今日のメニューを尋ねると、なんと肉が使われているというので驚愕する。妹は俺の態度を見て自慢げの胸を張る。
何度も言っているが、ウチは貧乏だ。
モヤシは安いし、周りには農家もいたりするから野菜はおすそ分けを貰ったりするから食べることが多いが、肉はめったに食べない。
奴は中々に高いからな。
「でも、今日は何かあったか? 別にそんな肉を出すようなことはなかったと思うんだけど」
俺が疑問に思い、腕を組んで首を傾げるが何も思い当たらない。
「何言ってるの? お兄ちゃんに勝お兄さん以外の友達が出来た記念だよ」
「おお、なんていい妹なんだ!!」
妹はなんでもない風に言う。
まさかそんなこと祝ってくれるなんて!!
俺はあまりに妹がいい子過ぎるので、感極まって抱きしめてしまった。
「く、苦しいよお兄ちゃん……」
「わ、悪い。思わずな」
「くんくん……女の匂いがする……」
「え?」
苦しそうにする妹の声に我に返って腕の力を緩めると、妹は俺の体の匂いを嗅ぎながら突然暗い声で何かを呟いた。
「お兄ちゃん!! どういうこと!!」
「い、いったい何のことだ?」
妹は俺から離れるとプンプンと怒りながら俺を問い詰める。俺は何のことかさっぱり分からずお困惑しながら聞き返す。
「なんでお兄ちゃんから女の人の匂いがするの?」
「えっと……それはだな……」
妹は俺に抱き着いた際にどうやら來羽の匂いを感じ取ったらしい。
女性は匂いに敏感だなんて言うけど、まさかこんなにちっちゃい内からとは思わなかった。
しかし、なんといったものか……。
來羽は距離感が壊れててくっついてくるとかいうと、來羽に対して反感を抱きそうだし。
「あ~、言えないんだ!! そんなお兄ちゃんはごはん抜きだよ!!」
「そんなぁ!! 言うから!! 許してくれ!! な?」
そんな風に考え込んでいたら、妹は殺生なことを言いだした。あっちでも最低限の食事以外ほとんど摂っていなかったので、帰ってきてせっかく食べられる美味しい妹の手料理を抜かれるのは困る。
肉が入っているのなら尚更だ。
「ふーん、それで?」
「今日会った女の子がいただろ。あの子の世話係みたいになっててな。教科書見せたりする時に結構密着した体勢になったからそのせいじゃないか?」
「ホントにぃ?」
先を促す蛍に、昨日に引き続きあったことを説明する。
全く嘘はついてない。ただ、詳しい部分を言ってなかったり、言ってないことがあるだけだ。これなら問題ないはず!!
「勿論だ」
「ふーん。分かった。今日はそれで許してあげるね」
「ありがとう」
「それじゃあ、手を洗ってきてね」
「分かった」
その日はなんとか無事に食事にありつくことができた。
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