第025話 それは書いてはいけません!!
俺と來羽は俺が帰ってきた公園でブランコに座ってぼーっとしていた。
蛍にはバイトを止めたことを言っていないのでこのまま帰ると問い詰められるので時間を潰している。
「何も付き合わなくても良かったんだぞ?」
來羽も隣のブランコに座っていて、俺に付き合わせるのも悪いと思って声を掛ける。
「最後まで一緒に居る」
「そ、そうか」
帰る気を微塵も感じさせない返事に俺は困惑した。
ここまで来たら俺もおかしなことはしないのに、まさかそこまでして監視を続けたいとはどこまで信用がないんだ俺は。
彼女がそうするって決めたならこれ以上何も言うまい。
「……」
二人の間に沈黙が下りる。彼女はブランコの鎖に手を掛け、少し俯いて軽くブランコを揺らしている。
その儚げな様子は一見すれば物凄く可愛らしいが、蓋を開けてみると、自分の容姿に対してあまりに無自覚で無頓着な上に、性的知識に無知で、無表情という中々個性的な女の子だ。
とにかくそんな美少女との沈黙は非常に気まずい。
「な、なぁ」
あまりの気まずさに耐え切れず、來羽に声を掛ける。
「ん?」
「せっかくだから、報告書の書き方を教えてくれないか?」
「いいよ」
「そんじゃあ、あそこに行こう」
「うん」
一人なら何の苦にもならない時間だが、二人だと耐え切れないので、俺はこの時間を使って報告書の書き方を教えてもらうことにした。
ブランコから降りて公園に備え付けられた東屋に向かった。俺が先にベンチに腰を下ろすと、彼女は自然に隣に座り、鞄の中からタブレットを起動してテーブルに乗せた後、尻をずらして俺にピトリとくっつく。
またかぁ!?
俺はそう思わずにはいられなかった。
しかし、今の俺は二度出した男。
ちょっとやそっとって反応したりしない。
「教える」
「ああ。頼む」
俺は普通を装って彼女のレクチャーを受け始めた。
「ここに必要事項を入力する」
「なるほど」
彼女は俺の前にタブレットを置いて身を少し乗り出すような形で俺に指示を出す。
そこには氏名やらなにやら入力する場所があって、彼女に聞きながらその項目を一つ一つ埋めていく。
俺が質問するたびに彼女が俺の方に身を寄せてくるのでその都度俺の腕に幸せな感触が襲い掛かってくる。
ふふふっ。その程度では反応しないのだよ、ワトソン君。
未だに反応が鈍っている状況に勝ち誇りながら彼女に教えてもらいながら報告書に必要事項を埋めていく。
ただ、詳しい状況や経緯を書く場所があって、そこはどこまで書いたらいいのか悩んでしまう。
「そこは私が書く」
「お、おう」
彼女は俺のタップが止まっているのを見かねたのか、俺からタブレットを横取りして記入し始めた。
彼女書き始めた内容を横から覗く。
『旧校舎の美術室にて依頼対象を発見。依頼対象は複数の触手を持つ悪霊だった。私が独断で依頼対象に突進し、幾度か傷をつけることに成功したが、油断した結果、視覚からの触手攻撃に襲われ、避けきることができずに悪霊にとられられてしまった。触手からヌメヌメしている液体が出ていて、その触手で体をこすられると、下腹部の奥の方がキュッと締め付けられるような疼きを感じ、全身に寒気に似た快感――』
「ちょっとまてーい!!」
しかし、内容が途中から怪しい方向に行き始めたので俺は慌ててそれを止めた。
この子は一体何を書き始めてるんだ!? 当時の状況を正確に描写するのはいいかもしれないけど、そんなことまで書いたらダメだろ!! ていうかそんなこと書いても恥ずかしくないのか!?
「ん? どうかした?」
「ここは俺に任せてくれ」
「そう。分かった」
彼女に任せていたらとてもマズい報告書になりそうだったので、俺が代わりに書くことにした。彼女に書かせるよりも百倍マシなはずだ。
そもそもこれまで彼女は似たような状況に落ちいったことはなかったのだろうか。
その時も同じような報告書を書いているのなら、すみれさんはさぞかし頭を抱えたことだろうと思う。
いや、俺を誘うようなことをする彼女のことだ。もしかしたら來羽の報告書をにやにやと眺めていたかもしれないな。
そんな風なことを考えながら、來羽が書いたものを参考にしつつ、スケベ展開を全て省いた説明文を書き終えた。
気付けば当たりは真っ暗になっている。
悩みながら書いた結果かなり時間がかかってしまったらしい。
「悪い。待たせたな」
「んーん。大丈夫」
來羽に謝罪したら、彼女は無表情のまま首を振る。スマホの時計を見ると時間的にも丁度良さそうだ。
「そろそろ帰るか」
「うん」
俺たちは荷物をまとめて公園を後にした。
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