第023話 天使と悪魔

 蒸気した顔とはだけた胸元から覗く鎖骨と膨らみの一部、そして首元が色香を出していて目に毒だ。


 彼女に近づいたことで発せられる柑橘系の爽やかな匂いの中に、いつもよりも甘く強い男を引き付ける女の子の匂いが多分に含まれていた。


 濃厚な匂いに充てられてクラクラしてしまう。


「うっ……くっ……」


 嗅覚と視覚、そして聴覚から入ってくるその暴力的なまで情報は、俺のなまくらソードが聖剣を通り越して、神剣と呼ぶにふさわしいほどの硬さと大きさに成長させてしまった。


―ドクンドクンッ


 体中の血が一斉に集まってみたいで少し意識が朦朧とし、神剣が心臓と同様に鼓動しているかのように感じられる。


 そしてその剣は俺のジャージを大きく押し上げてそれは見事な山を形成した。


「はぁ……はぁ……たい……ざん……からだ……あつい……」


 彼女は熱に浮かされたような顔で息を荒くしながら、羽織っていた俺のジャージのファスナーをジジジッと上から下に下げていく。


 それはどう見ても女の、いや発情した雌の顔をしていた。


 どうやら先ほどのイソギンチャクの触手の粘液が体内に取り込まれたことで彼女を今の状態にしていると考えられる。


 全く困った贈り物を残してくれたものだ。


 出会って即合体みたいな話を噂では聞いたことがあるが、出会った数日で煮たようなシチュエーションになっている。


 いやいや、俺がそんなことをするわけにはいかない。來羽にも好きな男性ができるはずだ。今ここで勢いでしてしまうのは絶対後で後悔することになるだろう。


 俺はなんとか体を動かして來羽の上から退こうとする。


 しかし、その時、ファスナーが全て下ろされてジャージの前が解放され、隙間から彼女の肌が露出し、二つの膨らみのほぼ半分が見え掛けている。恐らく先端に引っ掛かって辛うじてそこで止まっている状態だ。


 それと同時にジャージの内部に籠っていた生暖かい彼女の汗の匂いが女の匂いと同時に俺の顔に向かって完全に直撃した。


「うっ」


 先ほどまでとは比べ物にならないほどの濃縮した匂いに、俺の理性がグラグラと揺さぶられ、退けようと動かした手を止めてしまう。


 いやいや、駄目だ駄目だ。俺は盛った獣じゃない。れっきとした人間だ。


 俺はなけなしの理性で頭を大きく振って再び彼女から離れるために上体を起こそうとした。


「たいざぁあん……」


 しかし、彼女の足が俺の胴体に絡みついてきて彼女から離れることができなくなってしまう。なぜなら、完全に発情してしまっている來羽が俺の名前を呼びながら顔を近づけてきたからだ。


 足を巻き付けて俺の体を自分の体に寄せようと足で挟んで狭めていく。


―ピトッ


 それにより俺の体と來羽の体が徐々に近づき、とある場所が一番最初に彼女の体に触れた。それは血が集まることで聖剣とも呼ばれることがある男性の一部分。


―ビクンッ


 そして、当たっているのはどう考えても太ももと太ももの間にある女性の大事な場所付近だ。


 ぐわぁあああああああっ。


 俺の理性はぐしゃぐしゃにかき回される。俺の手は彼女の控えめが膨らみをつかもうと動き出し始めた。


「止まれ……」


 しかし、住んでのところで俺の理性がその手を止める。


 俺の中に悪魔と天使がせめぎ合う。


 悪魔「よしよし、お前は精一杯我慢したじゃねぇか。でもよ、相手から誘ってるんだぜ? お前が手を出したって文句は言われねぇよ。だからヤッちまえよ。据え膳食わぬは男の恥っていうだろ?」


 天使「よく耐えましたね。とても偉いですよ。彼女は今悪霊が残した女性を発情させる体液と戦っています。今彼女に手を出してしまえばお互いに一生傷が残ってしまいますよ。絶対に負けてはいけません。彼女を救うのです」


 どっちの言い分も分かるが、俺の気持ちは悪魔の甘い言葉に惹かれて止めていた腕が彼女の右の膨らみに向かって進み始めた。


―はむっ


 しかし、唐突に來羽が俺の距離を詰めて思いきり抱き着き、俺の耳を甘噛みした瞬間に全て真っ白に染まった。


―ビクビクビクビクンッ!!


 俺の体がひと際大きく痙攣し、三度目となる生暖かくねっとりとした感触がジャージの中に広がっていく。


「ピュリフィケイション」


 その瞬間すべては明確になり、浄化魔法を唱えていた。


 その浄化魔法は俺のズボンの中はもとより、來羽の体内の隅々まで浄化し尽くす。


 こうして俺は來羽との一線を越えずに済んだのであった。

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