第022話 賢者タイムを超える脅威
「ピュリフィケイション、ピュリフィケイション、ピュリフィケイ、ションピュリフィケイション」
俺はまず來羽に纏わりついている触手を指定して浄化することで彼女を解放する。
当然彼女を持ち上げていた触手がなくなれば残るのは來羽の体のみ。だから俺はすぐに走り出してその落下点に移動し、その体を受け止めた。
その体はあまりに軽くてまるで綿でも持っているようだった。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫……」
彼女はぴっちりスーツは恥ずかしくないのに裸は恥ずかしいらしく、露出した部分を隠している。
すぐに彼女を地面に下して、自分のジャージの上着を脱いで來羽に羽織らせた。
「ありがと」
「気にしなくていい。俺がすぐに助けられなかったのが悪いからな」
來羽すぐに袖を通して前のファスナーを閉める。
彼女は小柄なので、俺の上着がちょうどダボっとしたシャツみたいになって股下まで覆い隠し、その仕方からほっそりとした生足を生やしていた。
いつもの俺なら下半身が反応する光景だが、今の俺は男なら誰もが陥いる世をはかなむ時間帯に突入した。ピクリとも反応しない。
「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッ」
俺の後ろで苛立たしげに洞窟内を吹き抜ける風のような低い音が背後から聞こえた。
「ピュリフィケイション」
俺は襲い掛かってきた触手群に浄化魔法を叩き込み消し飛ばす。
一発でその全てがはじけ飛んで消え去った。
それでもなお奴は諦めることなく、俺に触手を差し向ける。
「ピュリフィケイション」
何度も襲い掛かってくるが、そのことごとくを消し去ってやった。
「むっ」
どうやらそれは囮だったようで、上ばかり気にしていたら來羽にやったように床の下から触手で襲い掛かってきて、俺をグルグル巻きにして縛り上げる。
「ピュリフィケイション」
しかし、今の俺は賢者。
その程度のことで魔法が使えなくなるわけもなく、俺に巻き付いた触手とその粘液ごと浄化した。
ベトベトとした感触も全て消え去り、サッパリとした状態に戻る。
「オ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛……」
出てくる触手のすべてを浄化されてしまった奴は弱弱しい声で鳴いた。
「もう終わりか? それじゃあ、こちらから行くぞ? ピュリフィケイション!!」
俺は最後に本気で浄化魔法を使用した。
「オ゛ォ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛……」
その光を受けたイソギンチャクの本体は断末魔を上げて純白の粒子となって消えてしまった。
そして俺の最後の浄化の光は柱となりどんどんその光を広げていく。來羽はその眩しさゆえに目を瞑り、俺は慣れているのでそのまま光が俺を通り過ぎるを待った。
光は旧校舎全体を覆い尽くし、その全てを浄化しつくすのであった。
これで旧校舎にあった不穏な噂は減るだろう。しかし、全く消えることはないと思う。なぜならああいう根も葉もない噂が好きな奴はどこにでもいるからだ。
俺の魔法が祓えるのはアンデッドだけ。生身の人間を祓うことは出来ない。
これからも不思議な噂は残るだろう。
しかし、向こう百年は悪霊が寄りつけないくらいに浄化してやったので暫くこの学校に悪霊が来ることはないはずだ。
「凄い……」
來羽そんな俺を見てぽつりとつぶやいた。
それから数十秒もしないうちにその光は何事もなかったように消え去り、辺りは普段の旧校舎の世界が戻ってきた。
「帰るか」
「うん、また助けられた。ありがとう」
「さっきも言ったが、気にするな。お互い様だ」
「うん」
俺たちは部屋から帰ろうと歩き始めた。
しかし俺よりも入り口側にいた來羽がフラリと体勢を崩す。
「お、おい」
俺は彼女を支えようとするが、彼女はそのまま倒れて俺も巻き込まれてしまった。
「はぁ……はぁ……」
仰向けに倒れた彼女を押し倒しているような状況になる。彼女と目があった。彼女は熱に浮かされたように顔を赤くして、目を蕩けさせて息を荒くしていた。
閉まり切っていなかったファスナーによってはだける胸元と、ジャージがせりあがって見えそうになっている下半身。
―ムクリッ
賢者になって旅立っていたはず俺の本能が帰還を果たし、熱をもって急速に硬くなるのを感じた。
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