第016話 起ちバレ逃走
「それじゃあ行くか」
「うん」
俺たちは学校に向かって歩き始める。
学校まではここから30分ほどかかる。自転車という選択肢もあったが、うちにはお金がないので買わなかった。今度給料をもらったら自転車を買うのも悪くないかもしれない。
「っていうかここまで来るの遠くなかったか?」
歩き始めてすぐにその事実に気付き、問いを投げかける。
この辺りに俺たちが知らない家はない。だから、少なくとも來羽がこの辺りに住んでいるということはない。つまり、來羽は遠くからわざわざ俺の家にやってきていることになる。
任務で一緒に登校する必要があるのは分かったが、ここまで来るのも大変だろう。
「10分くらい?」
「ああそうか。体を術で強化していたのか。それって見つかったら危なくないか?」
思った以上に近かった事実に一瞬驚く。しかし、ふと思い直して尋ねる。
術を使えば身体能力を劇的に向上させることができる、彼女と最初に出会った頃のように。それを使えばある程度の距離は全く苦になるものではない。
しかしそんな姿を一般人に見られたら大騒ぎになる。
「普通の人には見えないから問題ない」
その点はどうやら抜かりはないらしい。
「でもわざわざこんなところまで来なくても変な事なんてしないけどな」
「関係ない」
「それもそうか。俺が言葉で言ったところで意味のないことだもんな」
ただ、そんな手間をかけてまでウチまで迎えに来て貰てもらうのはなんだか悪いので恐縮すると、彼女は静かに首を振った。
確かに俺の言葉だけで彼女の任務の何かが変わるものでもないか。
話をひと段落させた俺たちは学校を目指して歩き出した。
そしてまたしても近い。腕を組むのは諦めたようだが、腕同士がこすれ合い、肩が歩くたびに軽くぶつかる。
だからなんでそんなに近いのかなぁ?
監視だってそんなに近づいたら見えないよね?
俺はそういう疑問を抱かずにはいられないが、口にすることはない。
暫く無言でひょこひょこと歩き続ける。
「どうかしたの?」
「いや、なんでもないよ」
俺の動きがおかしいことに気付いた來羽は俺に顔を覗き込んできた。
それから俺たちは無言のまま歩き続けた。
「え? 何あの子!?」
「美しい……」
「すっごい美人」
「あの子、芸能人?」
人通りが多くなると、すれ違う人たちが來羽と俺を見てこそこそと囁き合う。
俺は思わず肩身が狭くなる。
なぜなら、どうしてもこういう場所だと俺みたいなモブが來羽みたいな女の子を連れて歩くのはとても目立ってしまうからだ。
しかし、來羽はそんな視線や内緒話を聞く気はないらしく、ただ無表情で学校へと向かう。
「隣で変な動きで歩いてる男は誰だ?」
「彼氏?」
「まさか、あんな普通そうな男が釣り合う訳ないだろ?」
「うーん、でも距離近いよ?」
「そんなことないだろ……」
彼女に注目が集まれば必然的に隣を歩いている俺にも視線が集まる訳で、彼女と違い、平凡な見た目をしている俺はいろいろ言われてしまう。
くっ。俺だってこんなに傍を歩きたくないってのに好き勝手言いやがって……。
俺は心の中で周囲の奴らに悪態をつく。
「……あ、あいつ
「うわぁ引くわ……」
げっ。気づかれた。
俺がひょこひょこ歩きしてれば、当然分かる奴には分かる。
「俺先に行くわ!! じゃあな!!」
幸い同じ学校の人間ではなかったが、これ以上一緒にいるのは不味いと判断し、俺は來羽を置いてその場から離脱した。
走っていると下半身も落ちついてきて、学校につく頃には問題なくなったので色々と事なきを得た。
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