第015話 可愛い嫉妬
「いってきます」
「いってらっしゃい」
次の日、妹がランドセルを背負って玄関から出ていくのを見送る。
「ねぇお兄ちゃん、家の前に女の人がいるんだけど?」
「え?」
すぐに自分の準備を済ませるために自室に向かおうとするが、一度家を出たはずの蛍が戻ってきて変なことを言った。
俺にはウチにやって来るような相手はいないはずだが……。
いや、まさかな……。
俺の脳裏に一人だけ思い浮かぶ相手がいた。
「ど、どんな人だった?」
「多分お兄ちゃんと同じ学校の制服の人で髪の毛をハーフアップにした物凄い美人」
「あ~、えっと、多分知り合いだ」
妹に相手の容姿を尋ねたら、予想通りの返事が返ってきた。
どうやら俺の嫌な予感は当たったらしい。
「え!? お兄ちゃんにあんな美人な知り合いが!?」
「昨日転入してきたんだよ」
俺の言葉にあからさまに驚く蛍。
俺は少しだけムッとして答える。
俺にだって來羽みたいな美人の一人や二人……いや、なかったわ。なんの接点も何もかもなかったわ……。
妹に驚かれても仕方ないただの空気的な存在だった。
勿論異世界での知り合いという事なら結構いたけどな。これでも英雄だし。
異世界での話を持ちだして心の平穏を保つ。
「ふーん、そうなんだ。一体どういう関係なの?」
「どういうって言われても友達?」
妹に当たらめて來羽との関係を問われてなんて言ったらいいのか分からず、ひとまず無難な所にしておく。
「普通の友達がわざわざ家の前に来ないと思うんだけどなぁ」
「俺も分からないんだよ」
確かに妹の言う通りだけど、俺と彼女の関係は監視する者とされる者、というのが一番近いだろうけど、それは妹に言っても仕方がないことだし、ツッコまれたら困るから同僚だとも言いにくいしな。
それに妹に余り嘘はつきたくない。
「そっか。それじゃあ私が見極めてあげるね!!」
何故かフンと鼻息荒く意気込んでいる蛍。
お前は俺の妹であって母でも彼女ではないだろうに。
「いやいや、蛍が遅刻しちゃうだろ? 俺のことはいいからサッサと学校に行きなよ」
「えぇ~、やだもーん」
「なんでこういう時は聞き分けが良くないんだ?」
來羽がどんな反応をするか分からなかったし、妹の方が登校時間が掛かり、学校が始まる時間が少し早いので、先に活かせようとするが、蛍は顔をプイっと背けて言うことを聞こうとしない。
俺はいつもとても利口でわがままもほとんど言わないのに珍しい妹に首を捻る。
「つーん」
「はぁ……分かった分かった」
何を言ったところで先に学校に行きそうにないので、諦めて一緒に会うことにした。
俺は妹を引き連れて家の外に出る。敷地に外には遠くから見ても來羽だと分かるほど存在感のある美少女が立っていた。
「おはよう」
「おはよう」
彼女に近づいたらとりあえず挨拶を交わす。
「えっと……どうしてここに?」
「泰山と一緒に登校するため」
「そ、そうか……」
話を聞くとどうやらここからすでに監視は始まっているらしい。
俺は思わず頬が引きつるのを感じた。
「その子は?」
俺から視線を外して俺の背後から様子を窺っている蛍に目を向ける。
「私は
「こちらこそ泰山にはお世話になってます。私は忍野來羽。よろしく」
蛍は背中から出てきて挨拶をすると、來羽も珍しく長めに挨拶をして頭を下げた。
「ふーん。思ったよりも礼儀正しいみたい」
嘗め回すように來羽を観察する妹。
「お兄ちゃんとはどういう関係なの?」
「友達」
頼む、変な事は言わないでくれよ、そう願っていたら、來羽はまともな答えをくれた。俺はホッと安堵の息を吐く。
「まぁいいけど。言っておくけどお兄ちゃんは絶対あげないんだからね!!」
「?」
「言いたいことはそれだけ!! じゃあね!!」
妹は來羽の答えに一応納得したようだけど、牽制するようにビシリと指を突きつけたと思ったら、その場から走り去っていった。
妹はどうやら一緒に登校することを仲良いと勘違いしたらしく、このままだと俺が來羽に取られると思ったらしい。
そんなわけないのにな。だから断固として先に学校に行こうとしなかったのか。
やっぱりウチの妹は可愛いな。
そう思わざるを得なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます