第014話 紐パン

 それからも休み時間ごとに來羽の許に女子連中がやってきて俺との話を聞きたがった。


「私を治療してくれた」

「え? 本野君ってそんな医療知識持ってるんだ?」


「仕事先が一緒」

「バイト先も同じなの!? きゃーっ」


「近くにいるため」

「きゃー!! それで転入するなんてもう惚れまくりじゃない!!」


 しかし、詳しい話は出来ないから元々少ない口数の來羽の話がさらに断片的なものになって変な誤解が深まっていく。


 違う。そうじゃない。


 治療は魔法で回復しただけだし、仕事先は給料が良くて誘われたから同じになっただけだし、來羽は俺を監視しに来たんだ。


 何度もツッコミたくなったが、女子連中の圧倒的な熱量に打ち勝つことができず、何も言うことができなかった。


 そんなこんなであっという間に放課後になった。


「疲れた……」

「はんっ。いい気味だ。このリア充が!!」


 女性陣が部活に行ってようやく解放されたのだ。


 そんな俺に勝が不機嫌そうに話しかけてくる。


「マジでそんなんじゃねぇんだよ、ホント」

「どうだか。ほら、戻ってきたぞ。お前とは今日限りだ!! じゃあな!! ふんっ!!」


 俺が女子連中に囲まれていたのが裏切られたと思っているのか、いつも一緒に帰っているが、先に帰ってしまった。


 まぁ今までもちょいちょいあったことだからそのうち収まるだろう。


「いいの?」


 トイレかどこかから戻ってきたらしい來羽が俺に尋ねる。


「ん? ああ。あいつとは腐れ縁だからな。暫くすれば元通りになるさ」

「そう」

「それじゃあ学校を案内するよ」

「うん。よろしく」


 俺は鞄を持ち、席を立ちあがって來羽に学校を案内することにした。


『本野。話は色々聞いてるぞ。放課後に忍野に学校を案内してやってくれ』


 なぜそんなことになったかと言えば帰りのホームルームで担任にこんなことを言われたからだ。


 担任も絶対に面白がってるだろ。

 はぁ……全く気が重い。


 というか俺も6年ぶりに帰ってきたからうろ覚えなんだよなぁ全く……。


「えっと……なんでくっついているんだ?」


 しかし、やはり來羽は俺の横に回り俺の腕を取ってくっついてきた。


―ビクンッ


 彼女のほのかな柔らかさと匂いで血が集まりそうになる。


「より近くに居るため?」


 彼女自身も何故俺にくっついたのか分かっていないらしく首を傾げた。


「なんで疑問形?」

「嫌?」

「別に嫌じゃないけど……歩きにくいし、案内しにくいからさ。出来れば離れてくれると助かる」

「ん。分かった」


 質問の答えとは異なる問いが返ってきた。俺はこれ以上体が反応しないようになんとか離れてもらうために適当な理由を述べる。


 彼女は分かってくれたようで俺から離れてくれた。


 ふぅ……危なかった……。


 あと少し遅ければビンビンになっていたことだろう。しかし、半ビンビンくらいなら隠すこともたやすい。


「それじゃあ、行くか」

「うん」


 俺は先導して学校の案内を始めた。


 職員室、事務室、移動教室、音楽室や美術室、そして購買部などを記憶から引っ張り出しながらできる限り連れて行った。


 その際もすでに学校中に知れ渡っているのか、いろんな視線を浴びることになったが、もうそれは彼女と一緒にいる以上諦める以外ないと悟る。


「最後にこの屋上だな。一度来たから分かってると思うけど一応な」

「うん。ありがとう」

「気にするな。バイトもなくなったし、ちょうど良かったよ」

「そう」

「ああ。それじゃあそろそろ帰るか」

「うん」


―ゴゥッ


 俺たちが屋上から帰ろうとした時、ひと際強い風が吹いた。


―フワリッ


 その風で振り返った先に居た來羽のスカートが盛大にめくれた。


 飛び込んできたのは面積の少ない三角形の縞々の模様と紐。彼女の鼠蹊部にフィットして歪む縞々はとても煽情的な形を描いていた。


 まさかおとなしそうな彼女が紐パンとは……。


 物静かな彼女がまさかそんなエッチな下着を身に着けているとは思わなかった。


「うっ」


 そして、先ほどの光景を思い出してしまい、一気に血が集まり、臨戦態勢になってしまう体の一部。


 俺は思わず前かがみになるしかなかった。


「どうしたの?」

「い、いや、なんでもない。それはともかく男の前ではスカートはめくれないように抑えたほうがいいぞ」

「? 分かった」


 俺の顔を覗き込んでくる來羽に対し、前を隠しながら注意したら、彼女は見られたことを何とも思っていないらしく、不思議そうにしながらも素直に頷いた。


 なぜ俺の方がこんなにも気を配らなければいけないのか……。


 俺の帰還後の高校生活は全くもって前途多難である。

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