第013話 三度の飯より恋バナが好きな生き物

「え……」


 教室に戻ってきた俺を待っていたのはクラスメイト達からの様々な感情のこもった視線。


 私たちが誘ったのになんでお前が來羽と一緒に昼食を食べているんだ?

 お前は來羽とどういう関係なんだ?

 なんでお前みたいなやつが來羽みたいな美少女と仲良くしているんだ?


 その感情は興味や嫉妬、怒りなど様々だ。

 

 おそらく先ほどの屋上でのやり取りがすでに皆に伝わっていると見ていい。來羽ほどの美少女が誰かに恋人みたいなことをしていれば目立って当然だ。その噂は光の速さで学校中に広まることだろう。


 來羽はそんな視線を何するものぞといった様子で自分の席へと着席した。俺は少々気まずい雰囲気を感じ取って、ジットリとした汗を背中に掻きながら席に腰を下ろした。


「あ、あの~、忍野さん、彼とは元々知り合いだったの?」


 そんななんとも言えない雰囲気の中、一人の女子生徒が重苦しい空気を破って來羽に問いかける。


 6年ぶりのせいで彼女の名前が思い出せない。


 確か1年の時も同じクラスだったような気がするんだがなぁ……。


 異世界での記憶が濃すぎて色々忘れていることがある。


「うん」


 俺の思考している間にも時間は進み、來羽は端的に頷いた。


「本野君も言ってくれればよかったのに」

「いや、俺も転入してくるなんて知らなかったし、そもそも知り合いって言っても数日前に会ったばかりだからな。中々微妙だろ」

「それは確かにそうね」


 女子生徒は俺に向かった苦笑しながら話しかけてきたので、俺は彼女について何も言わなかった理由を話せば、彼女は頷いた。


 それと同時にクラス中もある程度納得したのか、重苦しい空気が軽くなった。


 この女子生徒はもしかしたら空気の悪さをどうにかするのと、俺に対するヘイトを霧散させてくれたのかもしれない。


 そうであるなら感謝すべきだな。


 俺は目礼して彼女に感謝を告げたら、彼女はウィンクで答えた。


 彼女もボブカットで軽く茶色に髪を染めた可愛らしい女の子のため、俺のエクスカリバーもとい、なまくらソードがピクンと反応する。


「それで、どういう経緯で出会ったの?」


 女子生徒は興味津々と言った様子で來羽に問う。


 教室中の人間が聞き耳を立てているのが分かる。


「危ないところを助けてもらった」

「えぇ~!? 本野君ってあまり強そうには見えないけど」


 來羽は特に隠す様子もなく淡々と答えた。


 女子生徒はその返答に驚きながら俺の顔と來羽の顔を交互に見つめる。


 いや、まぁ、外から体は見えないし、見た目も普通だから仕方がない。


「物凄く強い」

「そ、そうなんだ、意外だね」


 クラスの連中は明らかに勘違いしている。俺が相手にしたのは悪霊であってその辺のチンピラとか不良とかじゃない。


 とはいえ、異世界でも武術はある程度修めたし、アンデッドよりも怖いものはあまり多くないので、今更その辺りの人間に絡まれたところで怖くもなんともないのは事実だが。


「そ・れ・よ・り・も!! ってことはこの席を選んだのってもしかして!?」


 話を聞いていた女子生徒は助けられたと聞いて、あらぬ方向に解釈し始める。


「ん?」


 來羽は女子生徒が言っている意味が分からずに首を傾げた。


「もう!! 照れなくっていいのに!! つまり、本野君に惚れてここまで追ってきたってことでしょ!?」

『きゃー!!』


 女子生徒の言葉にクラスメイトの他の女子達も色めき立って声を上げる。


「ねぇねぇ!! やっぱり本野君の強いところに惚れたの?」

「私も気になるぅ!!」

「私も私も!!」


 女子連中は恋バナと聞いてここぞとばかりに俺達の周りに集まってきた。


 彼女たちの圧に俺は圧倒されてしまう。


―キーンコーンカーンコーンッ


 しかし、ここでお昼は時間切れ、チャイムがなり、授業の時間がやってくる。


―ガラガラガラッ


 それと同時に先生も教室に入ってきた。


「あ、ざーんねん。また今度ね。私は言葉祭ことのはまつり。よろしくね!!」


 彼女は最後に自分の名前を名乗り、席へと戻っていった。

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