第004話 ぴっちりスーツとたった一つの冴えた発想
「い、いや、なんなんだよその恰好は!?」
俺は彼女から目を背けながら非難する。
「ん? 私の戦闘服」
「いやいやそれはないでしょ!!」
こともなげに言う彼女に俺はツッコミを入れた。
なぜなら彼女が着てきたのは、首の下をすっぽり覆う全身タイツのような衣類で、いわゆるピッチリスーツやパイロットスーツ等と呼ばれるもの。
アニメや漫画で出てくると思うが、新世紀なロボットに乗る際に着たり、宇宙人と戦う際に着用している真っ黒なスーツだったりするアレだ。
しかし、アレはどう考えても創作上の衣類。実際の戦闘ではそれほど役に立つとは思えない、主に防御面において。確かに動きやすそうではあるけど。
なにせほんのり紫色を含む黒のボディスーツに包まれた彼女は、体のラインを余すことなく露わにしていて防御力なんて全くなさそうだった。
2つの掌に納まりそうな膨らみがスーツによってお椀型に綺麗に形づくられ、生地がお尻やふとともにもピッチリと張り付き、華奢でありがながらムッチリとした肉感を出している。
俺としては全裸よりもエロくしか見えなかった。
どう見てもその恰好で町を歩いたらダメだろうという歩く不健全そのもの。なんでこれが健全なのか理解できない。
「何かおかしいかしら?」
「いやいやなんで分からないんですか!? こんなの男の前に出たら絶対いやらしい目で見られますよ!?」
神崎さんも俺が何を言っているのか分からない様子。俺はなおもこんな破廉恥な姿で街中を歩いてはいけないと必死に訴えかける。
「大丈夫よ。人払いの結界を張っているから誰もここに来ないわ」
「いやいや、俺がいるじゃないですか!!」
なんだそんなことか言いたげな様子で答える神崎さんだが、ここには俺という健全な男子高校生がいることを忘れてはいけない。
すでに俺の一部が主張し始めているのでどうにかしてほしかった。
「ん? 私は気にしない」
「気にして!!」
忍野がよく分かっていない風に首を振る。
俺は彼女の反応に対して俺は悲痛の叫びを上げた。
こんなこと普通は女子の方が色々言ってくるはずなのに、なんで俺の方が気を遣わなきゃならないんだ?
俺は理不尽すぎる状況に混乱してしまう。
「まぁまぁ、そんなことよりも依頼の方お願いね。私はここで待ってるから」
「その前に服をどうにかしてくださぁあああああい!!」
何度言っても全く取り合ってくれない二人。
俺は思いきり叫んだが、彼女たちが俺の意思を汲んでくれることはなかった。
「大丈夫?」
「はぁ……大丈夫じゃないけど大丈夫だ」
俺と忍野は館の中に入るが、俺は戦闘スーツ姿の彼女を視界に入れて以来、ずっと前かがみになりながらひょこひょこと歩いている。
それもしょうがないだろう。
俺は異世界で6年間男所帯の中で暮らしてきた。そんな中に居れば色々と溜まってしまう。しかし、死の王を討伐するための旅は過酷を極めていたため発散する機会もなかった。
その期間を経て現実世界に帰ってきた俺にとって女の子という存在そのものが毒だ。視界に入れてるだけでピクリと反応してしまう。
その女の子がどう見ても痴女みたいな恰好をしていたら、さらに激しい反応が起こるのは当たり前だ。
俺はそれがバレないように必死に前かがみになって隠しているため、生まれたての小鹿のようにおぼつかない足取りで歩くしかなくなっているわけだ。
「そう。そろそろ怨霊が近いから用心して」
「わ、分かった」
彼女の先導にしたがってターゲットが居るであろう場所を目指して歩いていく。敵が近いため俺たちの会話がなくなる。
廊下を抜き足差し足で進んでいくと、その曲がり角で忍野は壁に背中を張り付けて角の向こうを窺う。俺もそれに倣い、壁に背中を付けて並んだ。
彼女を視界に入れないわけにはいかず、俺の眼にはボディースーツによって浮き彫りになっている彼女の肢体が映っている。女性らしい美しい曲線と小ぶりな果実がツンと上に向かって乗っかっているその姿は、それだけで俺の一部がさらに硬さを増すには十分な火力を持っていた。
くっ。これは拷問か!?
俺は凝り固まったモノを手で押さえつける。
「この先に一匹いる。やれる?」
「あ、ああ。ま、任せろ」
振り返って俺に尋ねる彼女に、必死に反応を堪えながら引き受けた。
あっ!! そうだ!!
その時、俺は一つの天啓を得る。
見て反応するのなら見なければいいじゃない。
それに気づいた俺は目を閉じる。目を閉じても付近の状態はある程度把握できる。これは異世界で手に入れた能力の一つだ。
これなら忍野の体を見ることがないため、反応することはない。
「ピュリフィケイション」
気持ちを落ち着け、煩悩を追い払った後で俺は曲がり角を飛び出し、嫌な気配に向かって浄化の魔法を唱えた。
いつもよりも弱い浄化の光がフラフラと飛んでいき、嫌な気配に直撃。
「グォオオオオオ……」
なんとかその悪霊は消え去ることができた。
「ぐっじょぶ」
彼女の声が後ろから聞こえてくる。全身にゾクゾクっと寒気のようなものが走った。
俺は思わずブルリと体を震わせる。なぜなら彼女の声を聴いただけで体の一部がビクンと反応してしまったからだ。
どうやら敵は來羽のエロい見た目だけではないらしい。声を聞けば当然彼女の姿が想起される。それもエッチな全身スーツを着た彼女の姿が。
そのせいで体の一部がまた硬さを取り戻してしまい、再び前かがみにならざるを得なかった。
「はぁ……」
俺は未来を憂慮してため息を吐いた。
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