エルエイジュ連邦
Hello, world.
この世界には様々な人種、様々な国、様々な風土、そして様々な神がいる。
微弱な力や身体しか持たない神から、強大な力や世界を破壊できるほどの力を持った神まで、数えきれないほど存在する。その神々の中でも、とりわけ大きな力を持つのが、創神(そうしん・つくりがみ)と呼ばれる者たちであり、この世界には6柱しか居ない。
そのうち光と闇を司る創神は、万物の根幹を担い、実質的な頂点に立ち世界を見守っているのだが。
「なあんでえ! リンゴが食べたいだけなの! 昔はこの値段でもよかったじゃん! ぼったくりじゃん!」
「いやいや、嬢ちゃん。この国のどこの市場でもこの値段だぜ。むしろ安いほうだと思うがな」
緑髪の少女はめちゃくちゃ店主にケンカをふっかけていた。この辺りでは馴染みのない服装と、馴染みのない尖った耳をしているが、観光客が多い国でもあるので特段目立つことはない。ないはずなのだが、あまりにもでかい声で騒いでいたため周囲から心配の目が向けられていた。
「20年前はもっと安かったじゃん!」
「にじゅ……"嬢ちゃん"って歳じゃないんか? まだ17,8に見えるが――」
「うるさいなあ! ちょっと、ちょっと寝すぎただけで120年くらいは生きてるんだぞ! あえ? 寝てたから140か。でもでも、修行のことを考えると……っぃだッ!?」
足元から鈍い音が響く。痛みに驚いて少女が振り返ると、知らない間にまた別の、異国の服で緑の髪の耳の尖った少女が立っていた。
「何でもベラベラ喋らないの。……すみませんね店主さん、リンゴ2つ貰っていきます。お釣りはいいので」
「あ、あぁ……どうも」
金を適当な果物の間に突っ込んで、先程現れた少女がクレーマーの少女を引きずって去っていく。クレーマーのほうの少女は不服そうな顔をして抗議していたが、やがて大人しくもう一人の少女に着いていった。
「……代金、足りねえな」
店主は苦笑しながら空を仰いだ。
・ ・ ・
「こらメア! スネ蹴らなくていいじゃん! 優しくしてよ!」
「あのねえ。いい? ウース、貴方は神なのよ? こんな人混みで身分を晒せばたちまち大騒ぎよ」
「リンゴ高かったし……高かったもん……」
メアは表情筋をぴくりともさせず、せわしなく感情表現をするウースをたしなめている。この国の大教会の地下で目を覚ました二人は、とりあえず変化がないか主要な場所を見て回ろうと市場に来ていた。
「にしてもリンゴたかいねー。3倍位の値段になってない? 寝る前に比べてさ」
「え、お代足りなかったかしら……」
「まあいいじゃん。ねえメアはなんかいい感じの人いた? 後継者的な」
「……まだね。光への適性が誰にも期待できない。まあ今日明日で見つかるものではないだろうし……」
「んむんむ。闇もねえダメそうだわ。のんびりでいいと思うよ〜」
ウースはシャリシャリとリンゴをかじりながら通りを歩いていく。幸せそうに頬張る彼女を横目に、メアは真剣な面持ちで後ろを歩いていた。
「んふ〜! おいひ、めあ〜、ろーしたの? かんあえごと?」
「20年で3倍の物価……気持ち悪いわね」
「おひろよし、らな〜。めあは。ほーいうとこがいいのらけど」
「飲み込んでから喋りなさい」
「お肉食べたい!」
「はあ……まあ、国の近況を聞き込むか」
後継者問題は情勢調査しながらでも問題ないだろう。第一、創神への適性自体ある方が稀有である。ウースもメアも「たまたま」なんとかなった類の人間だっただけで、適性はお世辞にもあるとは言えなかった。そのために苦労したところもあったので、ゆっくりでも良い人を見つけて、自分たちより力のある神にしたいというのが共通認識だった。
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