2-8
≪安城閑華視点≫
朝、私は起きると、姉を起こさないようにホテルの外に出ました。
有明海はこのホテルから望むことが可能です。
穏やかな波を遠目で見ながら手すりに寄りかかりました。
「紅梨さん、今日も早いね」
「島田くん、おはようございます」
半分以上驚きを隠せていないでしょう。
私は反射的に振り向くと挨拶を交わしました。
裏声はつかれるので島田くんと2人の時は地声でいいでしょう。
しばらくの沈黙の後で、島田くんが言いました。
「紅梨さんは昔、敦賀の山奥に住んでた?」
「そうですけど、何故知っているのですか?」
「今の姿勢と過去の記憶がフラッシュバックしたから。俺は隣に住んでいたからね」
「確か隣は田中と島田・・・・・・」
「その島田が俺だよ」
「そんな偶然、あるんですね」
正直に驚きました。
まさかそんなことが起こるはずないと私は思ってました。
と、すると・・・・・・島田くんは過去の私を知っているということですか。
両親のこともおそらく・・・・・・・・・・・・。
いえ、このことは忘れるとしましょう。
あまり深く考えすぎると体に毒ですからね。
私は考えながら部屋に戻ると、姉が起きていました。
私は朝食を頂き、有明海へと向かいました。
私はサングラスをかけて砂浜を歩き、海の家に入りました。
「いらっしゃい」
「こんにちは」
「おや、若い子を見るのは久々だね」
「え?そうなんですか?」
「知らないんか?まぁ、そんな大きな事故じゃなかったから知らなくても無理はない。
―――――去年の夏、事故で人が1人、死んでるんだよ」
「恐ろしい話ですね」
「嘘じゃぁない。本当の話だ」
海の家の人と話し砂浜に戻りました。
本当に事故だったのでしょうか?
私は少し疑問をいだきながら、近くで寝そべっている島田くんに近寄りました。
サングラスを取り、話しかけます。
「島田くん、何をやっているんですか?」
「紅梨さん!?」
島田くんが起き上がると、私は隣に座りました。
「何故ここに?」
「気が向いたからです」
「え・・・・・・?」
「1人でいるのが寂しそうと言うか可哀想というか、子犬のようです」
「紅梨さん、子犬好きなの?」
「な、なんでそのことを!?」
「今、バリバリ言ってたよ。」
島田くん、本当に探偵向いてますよ。
そんなことを思っていると、陽菜さんが走ってきました。
「プレゼント」
陽菜さんは島田くんの手に何かを渡しました。。
「あか・・・・・・安城さん、プレゼント」
そのまま私の手に渡してきました。
それは、カニでした。
虫とかそういうのだけは本当に無理ですっっっっ。
私は海に向かって全力投球しました。
沖合で水しぶきが少し上がったように見えました。
◆
雲仙普賢岳。
それは長崎、いえ九州を代表する火山です。
広大さだけではなく、巨大さにも驚きました。
数年前にも噴火したこの火山。
いつ噴火してもおかしくない場所に来れるようになったのも全て科学技術の進歩でしょう。
私がそう考えていると、姉が肩を叩いてきました。
「なにか考え事?」
「いえ、なんでもないです」
「そう、ならいいんだけど」
姉は私のことが少し分かっているようです。
ホテルに戻ると、すぐに私は手帳を出して、相川さんに電話をかけました。
何回も休みの時にすいません。
そう、心のなかで呟く。
『相川だ』
「休みの時に何度も大変申し訳ありません。1つ、調べてほしいことが」
『一応、これでも俺、休みなんだが――――承った』
「お願いします」
私は今日海の家で聞いたことをそのまま伝えると、情報を得ることができました。
被害者は現在行方不明。
捜索は打ち切りに半年前になったそうです。
相川さんにお礼を言うと、その場所の地形を調べました。
私は少し考え、明日飛行機までの時間に行ってみることにしました。
折角ですから島田くんと行くことにしましょう。
私は夕食が終わり、島田くんの部屋に行くことにしました。
丁度水無瀬さんと陽菜さんが一緒に散歩に行っているそうですから良かったです。
部屋に島田くんがいないので待つことにしました。
しばらくすると、島田くんが帰ってきました。
「待たせたね」
「いえ、待ってないです」
「用事でも?」
「いえ、明日少し用事ができてしまったので手伝っていただけませんか?」
「分かった」
島田くん、本当に優しいですね。
島田くんにその代わり勉強を教えることになり英語を中心に教えます。
21時をすぎると私は部屋に帰り、スマホで調べることを調べました。
◆
朝食を食べ終わると、島田くんと共に出発して、昨日来たところに到着します。
「紅梨さん、ここに何があるの?」
「少々、確かめたいことがありまして」
私は紐付のポリ袋を海に流すと、見事に離岸流に乗り見えなくなりました。
勿論、よい子の皆さんは実行してはいけません。
私はポリ袋にGPSを付けてあったのでその場所へ向かいました。
少し距離がありましたが、崖の下に到達していたようです。
ここまでは多分警察もやっているのでしょう。
ですが、相川さんによるとここに行った警察官数名はなにもないと証言しているそうです。
その人達が挙動不審だったと記録には残っているくらいらしいです。
崖を回って降りると、そこには洞窟がありました。
そこには人が住んでいる形跡がありました。
おそらく1人でしょう。
私は手帳にメモすると、中へ進みました。
「誰?」
奥からわずかに声が聞こえてきました。
少しずつ姿が見えるようになりました。
1年ほどここにいたのでしょう。
これが被害者、ですか。
12歳前後でしょう。
その人は足を引きずっていました。
「・・・・・・私は石川YUZU」
「探偵の・・・・・・?」
「えぇ。あなたを探してね」
「私は
1年くらい前に海で流されてここに流れ着いたの
ここに来た警官も黙らせたの」
私が事情を訊くと、誰かに押されて海に落ちたそうです。
そして、黙らせたとは一体どうやって・・・・・・。
私はとりあえずリュックから服を出す。
「とりあえずこれに着替えて下さい。その服はボロボロですからね。島田くん、外に出ますよ」
私は島田くんと外に出て待つ。
しばらくすると紗弥さんは着替えて出てくる。
「ありがとうございます。私のためにここまで」
「いいんですよ」
私は島田くんに紗弥さんを担いでもらって、タクシーまで運んでもらう。
「家はどこにあるんですか?」
「新梅川市街です。遠いですよね」
「私と同じですね」
「え」
「一緒に帰りますか」
私が空港に向かうように言うと、車が走り出しました。
◆
予めそんな予感がしていたので、飛行機のチケットを予約しておいたので良かったです。
私達が空港につくと、水無瀬さん達が先に保安検査場を抜けていました。
抜けると水無瀬さん達のもとに向かい、事情を話して合流しました。
そして飛行機で狩場梅川中央空港に無事到着しました。
島田くんと陽菜さんと私の家に来てもらいました。
「緑茶と紅茶、どちらにしますか?」
紗弥さんは紅茶を選択したので、紅茶を淹れに台所に向かいました。
しばらくいなかったせいか、ホコリが少し被っているような気がします。
それぞれ全員に飲み物を配ると、私が席に座りました。
水無瀬さんと幸雄さんは家に帰ったので、私と姉、島田くんと陽菜さん、そして紗弥さん。
「えっと、ありがとうございました」
「詳細を訊いてもいいですか?」
「はい。去年の夏、8月12日にあそこで誰かに突き落とされた
のでしょうか?気がついたらあそこの浜にいました。
そしてあそこで定住してました」
「誰も来なかったの?」
「心配無用です、陽菜さん。あそこには必要最低限の物資があって、
食料もありましたから」
とはいえ、栄養バランスが狂っているのには変わりないでしょう。
「紗弥さん、敬語は無用です」
「分かりました・・・・・・いえ、分かった」
「最後に訊きますが、心当たりはないのですか?」
「ない・・・・・・です」
この反応はおそらくあるのでしょう。
後で訊きますか。
島田くんと陽菜さんが帰っていくと、私は姉に買い物に行ってもらいました。
「紗弥さん、改めてですけど、質問です」
「なんでも答えるよ」
「私は絶対に他言しないと誓います。心当たりはないのですか?」
「ないです」
粘り切るつもりですね。
「家に帰ります?」
「・・・・・・イヤです」
「何故ですか?」
「絶対にイヤだ」
紗弥さんはうつむくと、手を握りました。
相当嫌なのでしょう。
もしかして・・・・・・昔の私のようにされているんですか?
もしそうだとしたら、力になってあげたい――。
◆
紗弥さんは相当私に懐いたようです。
学校の転校手続きをして、明日から通うことになりました。
勿論私が石川、という事実は口封じしました。
明日から学校なので、準備を進めて今日は寝ることにしました。
≪To The Next Story...≫
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