2-7
≪島田裕志視点≫
紅梨さんの跡を付けて、駅まで来た。
言っとくけど、ストーカーじゃないからね!?
これはね―――。
その―――――えっと―――――――。
すいません。
やってることストーカでした。
閑話休題。
紅梨さんはホテルに行くルートではないだろうか。
想像通りホテルの、しかも安城さんの部屋に入っていく。
俺は深呼吸をすると、ノックする。
扉が開くと、安城さんが居た。
早速訊いてみることにした。
「安城さん、早いね」
「いえ、やることがすぐに終わったので」
「紅梨さんに会った?」
「会いませんでした」
これはほぼ確実だな。
「島田くん1人ですか?」
「あぁ、ちょっと訊きたいことがあってね」
「なんですか?」
「安城さんって紅梨さん?」
安城さんにストレートに訊く。
「そそそそそんな訳ないじゃないですか」
「悪いけど、跡をつけさせてもらったよ」
隠し事苦手か?
ま、これは分かりきったことではあるんだけれども。
でも探偵モード(?)のときは隠し事得意に見えたんだよな。
なにこの違いは。
安城さんはしばらく沈黙していたので、証拠を言うことにする。
「紅梨さんがこの部屋に入っていったのにここに居ないということは、
しかも安城さんが会っていないということは」
「分かりました」
これは、なんの分かりました?
しかし、どちらにせよ達成感満載だ。
「そうです、島田くんの言うとおりです私の正体を見破るとは
大した腕ですね。はい」
「やっぱり」
「ただ、1つ、約束して下さい。このことを他言しないと」
「大丈夫だって。言われなくてもそうするつもりだから」
安城さんのことだからそういうと思った。
口封じは安城さんの必殺技だろう。
安城さんが一息ついたところで水無瀬達が来た。
「島田くん、どうだった?」
水無瀬が訊いてきたので、普通に答える。
「いや、俺の勘違いだったよ」
「人を疑うのはいいことではないからね」
疑うと言うか、もう答えが出てるんですけどね・・・・・・。
安城さん達と解散し、部屋に戻る。
「お兄ちゃん、そういえば有明海観光はどうなったの?」
「そういえばそうだったな今日の夜、話してみるか」
俺がそう言うと、陽菜の顔がぱぁと明るくなる。
有明海、そんな行きたいのかよ。
面白い要素1ミリもないと思うんだが。
そう思いながら椅子に座る。
「そろそろ食事だよ」
「そうだったな」
言われるまで気づかなかった。
もうこんな時間かよ。
食事に行って、俺が全員に招集をかける。
「どうしたの〜」
幸雄さんが1番に入ってくる。
「明日の予定を決定したくて」
「なるほど」
「みんな揃った?」
「えぇ」
「今日行く予定だった有明海観光は明日でいい?」
「私は問題ないです」
「わたくしも問題ないです」
「僕もいいよ」
「じゃぁ決定」
安城さん、即答じゃん。
もう、絶対に何も考えてないでしょ。
安城さん、誰にでも合わせるっていう心があるでしょ。
自分の意見を持て。
解散し、少し考える。
安城さんと紅梨さんの声って少し違うよな。
それになんとなく思考も違う。
俺はWPTを開くと、安城さんに訊いてみることにした。
島田裕志:≪安城さん、ちょっと訊きたいんだけど≫
安城閑華:≪なんですか?≫
島田裕志:≪いくつかあるんだけど1つ目、今後2人の時、なんて呼んだらいい?≫
安城閑華:≪本名は安城閑華だけど、澤井紅梨で慣れてるから
紅梨でいいですよ。ただ他の人がいる時はダメですよ≫
島田裕志:≪分かってるよ。それと、安城さんと紅梨さんの声って違うよね。
どうやって変えてんの?≫
澤井紅梨:≪島田くん、探偵ですか?地声が紅梨の方で、安城の方は裏声出してます≫
なるほど。
裏声・・・・・・。
安城さん―――紅梨さんの裏声あれなんだ。
違和感ゼロだな。
俺はスマホを仕舞う。
しばらくすると、水無瀬達が来る。
陽菜を連れて、風呂へ行くそうだ。
紅梨さんと一瞬目が会う。
1人になると、俺は勉強をする。
一次関数をやると、終わる頃に陽菜が帰ってくる。
その後は手当たりしだいに勉強をやり、22時位になるとベッドに潜り込んだ。
◆
「キレ〜イ」
「そうですね。これを神秘的と言うのでしょうか」
紅梨さんが陽菜と共に海岸に向かって歩いていく。
波が穏やかに打ち寄せている。
心が安らぐなぁ。
俺はサングラスを掛けると、少し行ったところに座り込む。
人の気配はなく、俺らだけっぽい。
砂浜に寝そべると、しばらく空を見つめる。
「島田くん、何をやっているんですか?」
「紅梨さん!?」
起き上がると、紅梨さんが俺の隣に居た。
「何故ここに?」
「気が向いたからです」
「え・・・・・・?」
「1人でいるのが寂しそうと言うか可哀想というか、子犬のようです」
「紅梨さん、子犬好きなの?」
「な、なんでそのことを!?」
「今、バリバリ言ってたよ。」
紅梨さんが言いました?というような顔を浮かべる。
言ったよ・・・・・・それに近いような言葉を。
俺は立ち上がる。
陽菜が走ってくると、俺の前に手を出す。
「プレゼント」
陽菜は俺の手に押し付けて来る。
俺が受け取り、見ると、カニだった。
カニ・・・・・・。
イッテーな、おい!!
そのハサミで俺の手を挟むんじゃねぇ!!
俺とそのカニを紅梨さんに渡す。
「あか・・・・・・安城さん、プレゼント」
カニを受け取った紅梨さんは拒絶反応するように、カニを海に向かって投げる。
俺らは切り上げて雲仙普賢岳に向けてみんなで行くことにした。
◆
雲仙普賢岳に到着すると山の広大さに度肝を抜かれる。
紅梨さん達が観光案内を読んでいる間に、俺は写真を取る。
雲仙普賢岳を見物すると、ホテルに戻る。
夕食を取り、明日はいよいよ最終日だ。
この旅行は収穫が大量だったな。
俺がそう思いながら風呂に入る。
部屋に帰ると、紅梨さんが待っていた。
「待たせたね」
「いえ、待ってないです」
「用事でも?」
「いえ、明日少し用事ができてしまったので手伝っていただけませんか?」
「分かった」
なるほど。
用事とは大体見当がつく。
俺は了承すると、そのまま紅梨さんに勉強を教えてもらい、寝た。
≪To The Next Story...≫
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