2-6
≪安城閑華視点≫
しばらくすると、2台、車が到着しました。
1台は水無瀬さん達の車、もう1台は相川さんの車でした。
「皆さん、おそろいですね」
私は手帳を開き、確認をする。
「山田さん、あなたに訊きたいことがあるんです」
「なんでしょう」
「信田さんが最後にこの老人ホームに来たのはいつですか?」
「5月1日のはずです」
「やはり、あなたでしたか山田さん」
「え、僕ですか?」
「あなたは信田さんが工事に反対しているのを気に入らなかったんですよね」
「それはそうですけど、私は殺してなんかいないですよ」
「そうですね。ですけど脅していたんですよね?」
「・・・・・・そうです。でもこれはあくまでこのプロジェクトを成功させるためのです」
「たしかにそうかも知れないですね。でもそれで信田さんが自殺した、としたら?」
「第一私は信田がいないと仕事が成り立たないんです」
「そうですか。でしたら、なおさら脅してはいけないのではなかったのでしょうか」
「はい」
やはりそうでしたか。
ならばもうひとり、いるはずです。
「そうとするならば、もうひとり嘘をついている人がいます」
「え・・・・・・」
「タクシーの運転手の臨界さんによりますと、
4月30日にここの老人ホームに行ったと言っていました。
確かに柳田さん、河合さんの証言で成り立っています。
確か・・・・・・もうひとり5月1日と証言した人がいましたね。
そうです、糶崎由香さん。あなたですよね。信田さんを殺したのは。
あなたはどこかで4年前、この辺り一帯に高速道路が通ることを知った。
だからここに老人ホームを立てれば立ち退き料をもらってボロ儲けすることができる。
お年寄りを巻き込めば世間は確かにあなたの味方になりますからね」
「そう。でもそれはあくまであなたの机上の空論。
この辺り一帯に転落するほどの高さがある建物は1つもない。
そして私は事件当日、この施設に居た」
「そういえば・・・・・・最初、私が来たときに転落死、とおっしゃてましたね」
「え、えぇ。それが何か?」
「あのとき、事件に関しての報道は一切されていなかった。
知っているのは信田さんを殺した犯人と警察関係者ですよね」
「ぐ、偶然よ。私は知り合いに教えてもらったの。そこに通りかかった」
「裏付ける証拠があります」
私は相川さんに指示をすると、木の前に立ちました。
「これは確か2ヶ月ほど前に貰った木ですよね」
「はい」
「施設の人が毎日水をあげています。それにも関わらず
育たないのは根を張っていないからでしょう」
「それがなんだというんですか?」
「相川さん、ここを掘って下さい」
「わかった」
「ちょ、何すんのよ」
糶崎由香さんが止める寸前に金属が石に当たった音がする。
青ざめた糶崎由香さんは後退しました。
「ここに井戸があれば話が別。ここに木があれば誰も掘り返せませんからね。
なかなかあなたも考えましたね。ここで信田さんを突き落として運んだのでしょう。
ここからわずかでも信田さんのDNAが検出されれば証拠となります」
私が証拠を突きつけると、糶崎由香さんはその場に座り込みました。
「全部、全部アイツが悪いんだ。何が高速道路建設中止だ」
「立ち退き料目当てだったんですね」
「あぁ。でもアイツのせいで計画が水の泡になるところだったんだ。だから殺ったんだ」
「いくら理由があったとしても人の命を奪っていい理由にはなりませんよ!」
一息つくと、相川さんの方を向きました。
「後は頼みます」
「うむ」
私は水無瀬さん達と分かれると、先にホテルに帰りました。
石川から安城になり、皆さんが帰ってくるのを待ちました。
思ったよりも早くノックの音がしてくると、私が扉を開けました。
「安城さん、早いね」
「いえ、やることがすぐに終わったので」
「紅梨さんに会った?」
「会いませんでした」
島田くん、一体何を言っているのでしょう。
とりあえず部屋に入ってもらうことにしました。
「島田くん1人ですか?」
「あぁ、ちょっと訊きたいことがあってね」
「なんですか?」
「安城さんって紅梨さん?」
え・・・・・・。
それはそうですけど。
流石にこの状況はマズいです。
「そそそそそんな訳ないじゃないですか」
「悪いけど、後をつけさせてもらったよ」
逃げようがないんですけど。
誰か助けて下さい。
「紅梨さんがこの部屋に入っていったのにここに居ないということは、
しかも安城さんが会っていないということは」
「分かりました」
もういいです。
観念しました。
必殺、口封じ。
「そうです、島田くんの言うとおりです。私の正体を見破るとは
大した腕ですね。はい」
「やっぱり」
「ただ、1つ、約束して下さい。このことを他言しないと」
「大丈夫だって。言われなくてもそうするつもりだから」
島田くん、優しすぎません?
これでなんとか山は越えたことになるでしょう。
話し終わったくらいの時、水無瀬さん達が入ってきました。
「島田くん、どうだった?」
「いや、俺の勘違いだったよ」
「人を疑うのはいいことではないからね」
水無瀬さんに島田くんが言わなくて何よりです。
余計なことを少しでも話さないよう見ていましたが、
島田くんが完全黙秘を貫いてくれたおかげでなんとかなりました。
皆さんが帰っていくと、姉が話しかけてきました。
「なんとかなった?」
「いえ、バレました。でも黙ってもらうように努力しました」
「あの人は大丈夫だと思う」
「なぜですか?」
「なんかわかんないけどそういうオーラ全開だから」
姉が言うオーラとは何を差しているのでしょう。
私はスマホを開くと、相川さんに今日のお礼を言いました。
おそらく相川さんは今、実家に戻っている頃でしょう。
悪いことをしましたね。
しばらくすると、食事に行き明日の予定を立てることになりました。
「今日行く予定だった有明海観光は明日でいい?」
「私は問題ないです」
「わたくしも問題ないです」
「僕もいいよ」
「じゃぁ決定」
明日、有明海観光をすることになりました。
その後は、水無瀬さんと陽菜さんに誘われてお風呂に行きました。
≪To The Next Story...≫
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